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なまこのスレイヤーズ・ゼルアメ中心のブログです。 各種版権元とは一切関係がございません。
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7.png

「孤独だったころの傷跡」
rewrite様からお借りしました。


お題7つ目は「孤独だったころの傷跡」です。
まさかの小話書いてしまいましたため、
こんなに時間かかってしまいました。
お暇なときに、つづきより妄想におつきあいください。

そしてとうとうPCを変えました。
やっと、やっとぬるぬる動くようになった・・・
のもつかの間、
SAIの再ダウンロード法がわからず、
今回の小話の挿絵がまさかの手ブロになりました。
挿絵とお題とは、一切関係ありませんwww




------------------------------

【孤独だった頃の傷跡】


春一番が通り過ぎ、
暖かな空気が肌にやさしい時期になりはじめた、
金色週間のとある1日。

電車から覗く景色からは、
時期外れの桜の樹は満開で、
見える山々のてっぺんは薄い雪化粧。
嗚呼風流、心落ち着く、自然の恩恵。


―――と、おれの現実逃避はそれこそ瞬く間に過ぎていく。

 

今を遡ること、3時間前。

 


「温泉?」
「そ!うちの実家のすぐそばの。」

ゴールデンウィーク2日目の朝。
来るか来るのか、と思ったらやっぱり来た。
挨拶も疎かに、朝っぱらから血の気の多い連中が3人。
メンツは言わずもがなだ。
いつも通り、ノックもせずに、おれの部屋に叫び声とともに突入。
いや、遠くから聞こえる走る足音が、ノック代わりなのだが・・・


―――てゆーか、予想が的中する辺り、おれも相当おめでたい。


「そーいやお前、ゼフィーリア出身だったな。」
「そうよー。中学の時、父ちゃんの仕事の都合でセイルーンに引っ越したんだけど、
 あたしが高校に入る時期に、家族はゼフィーリアに戻って、
 あたしだけこっちに残ったってわけ。
 またゼフィーリアで学校見つけんの、めんどかったし。」
「・・・一緒に帰りゃよかったものを」
「ゼル、なんか言った?」
「いや別に。」
「でさ!せっかく長期休みなんだし、
 久しぶりに帰るついでに遊んでこようと思って!」

概要はこんな感じだった。
リナはここまで一気に会話を終えると、
ペラ1枚のパンフレットをおれの胸に叩き付けた。

「で、この温泉ってわけか?」
「さっすがゼルちゃんのみこみが早いわね!
 葡萄で有名なゼフィーリアは、北にあるけど気候はそれなりに温かく、
 今は遅咲きの桜がまんかーいなのよっ!
 そんな中、湯煙を纏う美少女・・・なーんてめちゃめちゃ絵になるじゃない!?」
「美少女ねぇ・・・」
「何はともあれ、行くわよ!ゼフィーリア温泉ツアー♪」
「行こうぜゼルー!」
「行きましょうゼルガディスさんっ!!」

息つく暇もないセールストークに花を咲かせるリナと、
おれの両腕をそれぞれがっちりホールドするガウリイとアメリア・・・
どっちにしても何を言っても、
有無を言わせず連れて行くくせに。

「で?いつ行くんだ?」
「へ?」
「ゼフィーリアへ行くのに、電車何本乗り継ぐと思ってるんだ。
 途中までバスとか使うにしても、このゴールデンウィークに、
 バスの予約とれるかどうか・・・」
「なーに言ってんだゼル。」
「は・・・って、そーいやお前ら・・・
 やけに荷物がでかいような・・・」
「今から行くに決まってんでしょ―――!!!」
「んな無茶な―――――!!!!」
「ほら!だから早く荷造りしなさいって!」
「こら待てお前ら!!勝手に人の荷造りすなっ!!!
 おい!!アメリア!!そこだけは開けるな――――!!!!!」

 

そして現在に至る。

怒涛のように荷物を詰めさせられ、
引きずられるように出発し、
無事にゼフィーリアまで、あと5駅の所まで差し掛かっている。
なんでも、ゴールデンウィーク前からこの計画を進めていたらしく、
バスの予約も、電車の時間もチェック済み。
しかも、

「リナさーん!一人でお菓子食べ過ぎですよー!」
「えー!フィリアだってずーっとその茶ー飲んでんじゃない。
 あたしにも一口ちょうだいよー!」
「いやです!リナさん、私が丹精込めて注いだお茶、
 い―――っつもがぶ飲みで、
 ゆっくり味わってくれたためしないじゃないですかっ!」
「ヴァルー、お前の食ってるのうまそうだなぁー。一口くれよー!」
「・・・あんたにやると全部なくなるからいやだ。」

漏れなくフィリアとヴァルガーヴも一緒の、
6名という大所帯での旅行だったのだ。
―――この2人も誘うなら、おれにもはじめから言っとけっつの。

「ゼルガディスさん、ずっと窓の外見てますけど、
 もしかして酔っちゃったんですか?」
「は?」
「わたし、酔い止め持ってますけど・・・」
「いや、違うから。」
「そうなんですか?なんだ良かった♪」
「っ・・・///」
「アメリアー!ゼルも!トランプしない?」
「いいですね!!」
「おい・・・そろそろつくってのに今からか・・・?」
「え?もうそんな?」
『ゼフィーリア―、ゼフィーリア』
「げ!」
「おー!もう着いたのかー!」
「ほーらあんた達!!急いで降りんのよー!!」
「あー!待ってください――!!!」

全く、タノシイ旅になりそうだ。

 


リナの言っていた通り、
北へ北へと向かった割には温かく、
どこを見ても、桜が彩りを添えていた。
季節が季節であるせいか、さすがに名物の葡萄はなっていないが、
土産屋には、葡萄をあしらったものが所狭しと並べられている。
規模の小さい所だと思っていた割には、
観光客も多く、やたらと人が元気な所だった。

そんな中をぞろぞろ歩いて着いた先の温泉宿も、
古びているが、レトロな雰囲気がまたいい味出していて、
1泊する(泊まるのも聞いてなかったぞ)割には、
学生にも優しい価格だった。
ゼフィーリア万歳。

「で、これからどうするんだ?」
「あー。とりあえず、あたしは実家にちっと顔だしてくわ。」
「あ。わたしも行きますー!」
「私もご一緒させてください。」
「あ、そう?あんたらはどーする?」
「んー?オレは、とりあえず風呂かな?ゼルもヴァルも、一緒に風呂行こうぜ!」
「あ?まぁ、構わんが。」
「あ、そ。じゃぁ、行ってくるわ!」
「おー!きぃつけてけよー!」
「じゃぁ、またあとでー♪」

きゃっきゃとリナ、アメリア、フィリアの女性陣は、
軽い荷物をまとめ、部屋から出て行った―――

「いいのかガウリイ?」
「え?」
「リナん家、てっきりお前も行くもんだと。」
「・・・今は、まだ無理。」
「あ、そ。」
「じゃ、風呂行こうぜ!今なら貸切かもなー♪」

つとめて明るい声で言うガウリイに、親近感を感じてしまい、
なんだか右の頬がむずむずした。

「うひょ――!!ひっろいなー!!」
「本当に貸切とはな・・・。」

真昼間から温泉につかる観光客は幸運にもおれ達だけらしい。
いくら慣れたとはいえ、あまりこの肌を人目にさらしたくはない。

「・・・もう、痛くないのか?」
「ん?この肌か?あぁ、別に痛いわけじゃない。」
「ヴァル、ゼルの裸見んのはじめてだっけ?」
「・・・その言い方止めろガウリイ;」

大浴場に3人同時に浸かると、さすがに高校生男子3人の体積に、
ざああぁっと、派手に湯が流れ出す。

「ぷは―――!!気ぃんもちいなぁ――!!!」
「・・・疲れた。」
「ははっ!ゼルももうおっさんだなぁー!」
「お前らが何の予告もせずいきなり長旅させるもんだからな。」
「だってー、ゼルをビックリさせたかったんだぞー?」
「へーへー、びっくりしましたよ。」
「拗ねるなって!」
「俺も・・・半ば強制連行されたようなもんだし。」
「ヴァル、フィリアの熱弁に根負けした感じだったもんな!」
「・・・お前も大変だな。」
「・・・・・・・;」

大浴場の、大きな窓から覗く景色は、
電車で見たのとはまた別の風景で、
完全な雪山を正面に、雲一つない真っ青な空を映す湖と、
それを囲む青々とした木々がくっきりと映し出されていた。
正直、旅の疲れも和らいだ。

「ところでヴァル?」
「ん・・・?」
「フィリアとはどこまでいってんの?」
ざばああああああああああああっ!!!!!

今のは湯の中でヴァルガーヴが盛大に体制を崩した音。

「なっ・・・なっ・・・な!!!?」
「だって、ヴァル一人暮らししてんだろ?
 しかもそんなお前にほぼ毎日ご飯作りに行ってて、
 たまに勉強見てやったり、ご飯一緒に食べてのんびりしてるーって、
 フィリア言ってたぞ?」
「ほぉ・・・」
「いやっ・・・!!だからって・・・
 俺は別に、あああいつとは、ねーさんとは・・・
 そういうんじゃなくてだなっ・・・!!!」
「えー。怪しいよなー?」
「怪しすぎる。」
「~~~~~~~!!!///」

体制が崩れたままの姿で、みるみる顔色が赤みを増すヴァルガーヴ。
明らかに湯に浸かったせいではない。
―――いかん、にやにやする。

「なー、オレらにくらい話してくれたっていーんだぜ?」
「~~~だからっ・・・俺とねーさんはそういうんじゃ・・・!!」
「だったら学園寮に来ればいいんじゃないか?
 一人暮らしは何かと苦労するだろう?
 ま、誰かさんの料理の方が良いなら、話は別だが?」
「お!ゼル、なるほどなー!」
「~~ただ俺は集団生活が苦手なんだっっ!!」
「今日は泊まりなんだぜー?
 せっかくだから今の一人暮らしが無駄にならんように、
 フィリアとの距離、縮めちゃえば?」
「~~~っ何のために一人暮らししてると思ってるんだ!!!」

そうそう、せっかくヴァルガーヴは一人暮らし。
今日の泊まりを無駄にしないように・・・
―――泊まり?

「そっ・・・それはあんたらも他人事じゃないんじゃねーの!!?」
「え?」

しまった。
確かに、他人事じゃない。
自覚すると、一気に脳内が釜茹で状態に陥られる。

「あんたらも、この機会にインバースとセイルーンと、
 ナカヨクなればいーじゃん!!」
「オレらは元から仲良しだぞ?」
「そーゆんじゃねーよ!!」
「そーゆーナカヨシなら、オレ今回は絶望的だな・・・
 なんせリナの実家だぜ?
 手ぇ出そうもんなら・・・生きて帰れなそうで・・・;」
「ガウリイ・・・どーりでヴァルガーヴに絡むと思ったら・・・」
「んだよ八つ当たりかよこの野郎!!!」
「ブクブクブク」
「誤魔化すな!!」
「で?ゼルはどーすんの?」

―――ガウリイ!!話をふってくれるな!!

「何っ・・・が?」
「あー、ゼルー?もうのぼせたの?」
「やかましいっ!!」
「あんた、そんなにのんびりしてていーの?」
「・・・なんだと?」
「セイルーン、結構モテるから。」
ざばあああああああああああああっ!!!

今度はおれが盛大に体制を崩す羽目になった。

「え?ヴァルそれホント?」
「あぁ。俺のクラスの奴も言ってた、可愛いって。」
「ちっ・・・!!!」
「落ち着けよゼルー。」
「やかましいっ!!!」

知ってたさ。
あいつがモテることぐらい。
現にあの副会長の件があるからな。
だが、顔も知らない雑魚があいつの周りをうろちょろすると考えただけで、

「くっ・・ふぬんっ・・・!」
「ゼル・・・そんなに手拭いきつく絞らんでも・・・」
「もう水滴も出てねーよ。」
「やかましいっ!!!!」

改めて―――いらいらする。


この後もそういった「これぞ一般思春期男子だぞゼル!」だという話題で、
普段の入浴の倍以上の時間を費やし、
やっとあがった後、3人共フルーツ牛乳を3杯一気に飲み干した。

 

「何よ、3人して楽しそうじゃない?締まらない顔で。」
「リナ!もう帰ってきたのかぁ?」
「本当にちょっと顔だしただけだから。」
「そうなのか?」
「覚えてないでしょうけど、あたしの実家は商売してるから、
 家族総出で忙しいの。」
「そうなのか。」
「そうなのよ。さーて!あたしらも温泉行ってくるとしますか。」
「じゃぁ、あがったら皆でトランプしよーぜー!」
「・・・アメリア達にも言っとくわよ。」
「リーナー!」
「リナさーん!温泉、行きましょう~!」
「はいはい行くわよー!」
「あ!ゼルガディスさん達、もう温泉まったりモードですぅ!」
「温泉、まったりモード・・・?」
「むむっ!!フルーツ牛乳派ですか!?
 わたしは真っ白正義のプレーン牛乳派ですっ!!」
「あー・・・そうかい。」
「ヴァル!暑いからってもう少し浴衣の前閉めなさい!!」
「なんで?」
「なんでもですっ!!んもぉ!」
「いーからねーさん、早く行って来いよ・・・」

きゃっきゃとやかましい女性陣の背中を見送りながら、
何故か3人同時にため息をついた。

 


――――夜
おれは1人で露天風呂に浸かっていた。


食事は女子の部屋に運ばれたため、
必然的に勃発した、食事大戦争inゼフィーリア。
食事が御膳ではなく、寄せ鍋であったことが運の尽きだった。

戦争の首謀者、リナとガウリイの食材取り合い合戦により、
己の食事と、身の安全の両方を確保せねばならぬ、
その光景はまさに、サバイバル。
おれは早々に弱肉強食の戦場から抜け出し、
無駄に疲労した身体を、ひっそりと癒しにきたわけである。

この時間ともなると、さすがに客はおれ1人で、
昼間は入りそびれた露天風呂も、夜景に浮出るように咲いた桜も、
半分に欠けた月も、その全てを朧に映す湯気も、
全部おれのものだった。

さっきまでの騒がしさが夢幻であったかのように、
今この空間には湯のさらさらと流れる音しか聞こえない。

ここまでの静寂の中、一番無防備な姿であるからこそ、
桜が風に流れる音や、自分の中に流れる血潮の音、
そんな繊細な音すら聞こえそうだった。


―――ガラッ


おれの風流タイム、終了。
おれが入ってから3分も経たぬうちに、
他の客も入ってきたようだ。
しまった、この身体を曝すのは相手に酷か・・・
そう思った瞬間だった。

「いやー!夜景がきれーね奥さん!!」
「あらー!この時間にきてよかったわねー!!」
「やっだ!奥さん、お兄さんいるわよっ!!」
「あらあらやーですよ!恥ずかしい!」
「そんなこと言う歳じゃないでしょー!?」

あっはっはと、威勢のいいおばちゃん軍団。
そしておれはとんでもないことに気付いた。

「・・・ここ、混浴?」
「あらお兄さん、知らなかったの?この時間になると、
 露天風呂は男湯と女湯つながって混浴になるのよっ!」
「ごめんなさいねー!?若い女の子じゃなくってね!」
「あたしらはラッキーだったわよねー♪イイ男と混浴出来てv」
「あらやだ奥さん、はしたない♪」

そしてまたあっはっはと豪快な笑い声が響く。
おれは、やれ歳はいくつだ、どこから来たか、彼女はいるのか等々・・・
散々質問され、笑い声に巻き込まれ、
一頻り満足されると、おばさま軍団はさっさとあがっていった。

「・・・疲れた。」

疲れを癒しに来た場所で疲れるとはどういうことだ。
湯に浸かって疲れるとか・・・
誰がそんな上手いこと言えといった。
気を取り直して、今度こそこの空間を満喫しようと、
おれは目を閉じた。

 

 

―――カラカラカラ・・・

しばらく静寂の世界を漂っていたせいか、
どのくらい時がたったのか最早見当もつかなくなった頃、
繊細な研ぎ澄まされた感覚を思い出した聴覚が、
来客の音を捉えた。

軽い足取り、恐らく1人。
ぽちゃん、とおれのテリトリーに入り込むが、
覆い漂う湯気のせいなのか、その気配は薄い―――
ってちょと待て。
軽い足取りとか、湯船に入る音とか、
完全に女性なのではないか―――!!?
と、おれの脳みそが覚醒するのと、
その人影に見つからずに湯船から脱しようと動き出したのは、
ほぼ同時であった。
そのため、失われた平衡感覚―――

「きゃっ!!!」

よって、ぶつかった。

ばしゃ―――ん!!!


あれ?


「んもぉ・・・!誰かいらっしゃったんですかぁ?
 って、あれぇ!!?ゼルガディスさーん!!」
「なっ・・・あぁっ・・・!!!?」
「もー!さっきから見かけないなーと思ったら、
 先にいらしてたんですかー!びっくりするじゃないですか!」
「・・・それは、こっちの・・・セリフだ・・・」
「えぇ?ゼルガディスさん、ここ混浴だって、
 知らないできたんですか?」
「おっ・・・お前は知ってて来たのかっ!!?」
「はい。」
「~~~~アメリアァッ!!!」

よりによって、
おれにとって最大にして最強の仔羊が現れた―――


「・・・おれはあがるぞ。」
「えー!あがっちゃうんですかー!?」
「~~~それが男に言うセリフかっ!!??」
「わたしとゼルガディスさんの仲じゃないですかっ♪」
「・・・」
「仲間同士で一日の疲れを共に癒す・・・
 まさに正義の仲間たちの理想の姿じゃないですかっ!」
「正義はここにおいては一切関係ないだろう・・・」
「まー、いいじゃないですかっ!
 せっかくなんで一緒に入りましょうよ。」
「・・・・・どうなっても知らんぞ。」

―――ちくしょう・・・!
惚れた女に風呂誘われて断れるほど、
おれは理性的な人間じゃないんだよ―――

 


湯煙に、映し出されるは、
夜霧と自然の恵みと、
アメリア―――

髪がしっとり濡れ、ほんのり頬が桜色で、
睫毛や唇が水滴でキラキラした、
タオル一枚のアメリア。

―――いや!!最後のフレーズが重要ってわけじゃなくてだなっ!!

っつーか、こいつも本当なんて女だ!!
いくら気を許した男であるからとはいえ、
タオル一枚の現状況で近づいてくるとは、
どんな教育受けてたんだ父親の顔が見てみたいわ!
って知っとるわ!!!
タオル一枚だぞ・・・!?
そこを隔てた先には、巷で密かに噂されている、
圧倒的な質量を秘めた、
今目の前に映し出されている美しい夜景よりも絶景が―――

ってぇ!!だめだ、これ以上は思考を停止させろおれ!!
脳みそ沸騰する!!


「それにしても・・・ゼルがディスさんの身体、
 こんなにまじまじと見たのはじめてです。」

・・・それはおれも

「やっぱり身体もなんですね・・・
 ちょっと触ってみてもいいですか!?」

・・・こらこらこらこら!!!触るな!!
触った分だけ触らせろと言ったらどーせ殴られるんだろ!?
なんて理不尽な世の中なんだ!?

「ふおおおお・・・!!
 やっぱり・・・痛かったですか?」
「そんなの・・・もう覚えていない。」
「嘘です。痛みは、そう簡単に忘れられるものじゃないです。」
「・・・お前は、知らんでいい。」

こんなに、夜目にも白い肌の彼女に、
傷の痛みなぞ―――わざわざ教えたくもない。
しかし彼女は、ぎゅっとおれの腕の上で丸いこぶしを握った。

「―――知ってますよ。」

その声はいつになく真剣なそれで、
言い返すことができなかった。
そしてその時、
おれは気づいてしまった。


おれは普段から比較的洞察力や観察眼はある方だと自負している。
まぁ、リナの行動や、ガウリイの脳内や、アメリアの思考、
といった例外は存在するが、
とにかく、その能力が備わっていることを、
後悔する日が訪れるとは思ってもみなかった。

「それ・・・どうしたんだ?」

後悔はしても、やはり聞かずにはいられなかった。
聞けば彼女は傷つくかもしれない。
彼女が傷つくことは、おれにとって最も避けたいことである。
だが、それでも、おれはアメリアのことが知りたかった。

蒸気のせいか、涙腺がゆるんだせいか、
それはわからないが、確かに彼女の眼は潤んでいた。
その眼でゆっくり見上げられながら、
おれは辛抱強く、彼女の言葉を待つ。


おれの指した「それ」とは、
アメリアの背中、僧帽筋にかけてざっくり斜めに横たわっている、
白く柔らかそうな肌には、
完全に場違いな傷跡――――


「・・・小さい頃に、ちょっと。」

そしてアメリアは、小さく語り始めた。

幼い頃に、母親を亡くしたアメリアは、
あの父さん、フィルさんと、歳の離れた姉と3人で暮らしていたそうだ。
だが、フィルさんは仕事で家にいることの方が少なく、
姉もある日ひょいっと、海外に長期留学をしはじめ、
あの大きく広い家に、一人でいることが日常だった。
そんなある日に、事件は起きた。

「わたし、いっぺんだけ、誘拐されちゃったんですよね。」

本当に幼いころの話で、
その時の記憶も曖昧だそうだが、
暗い部屋と、縛られた感触と、誘拐犯の大きな声は、
今でも鮮明だという。

「その時、怖くて怖くて・・・思わず泣き叫んでしまい、
 犯人に殴られて吹っ飛ばされちゃった時、出来た傷なんです。」
「その犯人は?」
「すぐ捕まりました。父さんが顔もわからなくなるほど殴ったそうです。」
「・・・」
「その日から父さん、仕事もなるべく家でやるようになりましたし、
 使用人さん達を雇ったり、わたしを1人にさせないよう、
 大勢の人が家にいるようになりました。」

―――やはり聞かなければよかった。
アメリアは何の気なしに話しているようだが、
その顔は、努めて明るくしているようでしかない。

「傷も、大分薄くなってきてるんですよ?」

いつもの柔らかな明るさでは決してない。
辛さが溢れそうな箱を、必死で押さえつけているような、

「でも、おかげで護身術も身に付きましたし。」

そう、それはまるで、

「もう、全然大丈夫なんですよ?」

―――泣いているようで

「・・・そうか」

相槌を打つしかない自分の言語能力の乏しさに反吐が出る。
だがここで、あいつの心を癒せるような、
温かい言葉の一つや二つ、かけてあげるべきなのだろうか・・・

いや、それはお門違いだ。
そう感じるのは、おれ自身がひねくれ者である、
というわけではない。
おれも―――孤独の味を知っているからこそ、
優しい言葉だけではどうにも心の中核に届かないことを知っている。
ただの優しい言葉だけでは、まだ心もとない。
おれ達、未熟者は、そんなもので満足できるほど、
大人じゃないんだ。

「―――触ってみても、いいか?」
「え・・・」

アメリアの了承を聞く前に、彼女の背中に手を伸ばす。
おれの掌で覆うとちょうど隠れる程度のその傷は、
彼女の言うとおり、大分薄くはないっているようだが、
今の今まで年月が過ぎても、まだその存在を主張していられる程、
元が深い傷であったことを物語っている。

「っ・・・・!!」

触れてみると、やはりというかなんというか、
柔らかかった。

「あっ・・・あの・・・」
「ん?」
「・・・気持ち悪く、ないんですか?」
「はぁ?」
「だって!!・・・きれいなものでは、ないでしょう?」

呆れてものも言えん。

「お前・・・おれがそういうこと言える立場だと思うか?」
「は?」
「明らかにおれの方が気持ち悪いだろうが。」
「何を言ってるんですか!!?
 ゼルガディスさんが気持ち悪いわけないじゃないですかっ!!」
「何を根拠にんなこと言うか!!」
「根拠もくそもありません!!」
「お嬢さんがくそとか言うな!!」
「ゼルガディスさんは、綺麗です!!」
「そう思うならおれもお前と一緒だ!!」
「――――へ?」

いきおいで言わなくてもいいことをこぼした気もするが、
趣旨は決して間違えてはいない。

「・・・おれの方が、傷多いから、な。」
「・・・・ぷっ」
「何笑ってんだ。」
「・・・おかしい、そんなとこで、張り合わないで下さいよ。」

くつくつと、笑った声が表情が、
先ほどとは明らかに違っていた。
ほんの少し、枯れた岩陰から一滴水を見つけたような、
そんな些細な変化だが、
そんなアメリアを見た途端、
おれの胸の中心より少し下の辺りに、
いきなりきゅうっと音がたつような、痛みが走った。

「っ・・・!!ちょっ・・・ゼルガディ、さっ・・・!」

ざばっと水を切る音と、
掌にアメリアの腕を抑える感触と、
傷跡に引き寄せられる自分がいて―――
アメリアの声に、少しだけ意識が戻る。


衝動的におれは、彼女の傷跡に口を寄せていた


痛みが少しでも和らぐよう、
昔、傷口から噴き出た血液を抑えるよう、
何度も、傷口に沿って口づけを繰り返し、
時には舌を這わせながら、何度も、何度も――――


たまらなかった。
悲しい顔から、あんな表情をさせたのが自分だと考えると、
おれの本能は、たまらなく、全てを求めだした。

―――あんな、大人の女みたいな顔、どこで覚えたんだよ

一番彼女の心を痛めている、背中の孤独の跡でさえ、
しゃぶり付くほど愛しいことを、
本人にはまだ知られたくないくせに、
行動では寧ろ先を、先をと、求め続けた。

「っく・・・ひっ・・・ぃ・・く・・」
「っ!!!」

この彼女の声で完全に我に返り、身体を離した。
しまった。
理性が大爆発して求めた結果、泣かれた。

「す・・・すまん、アメリア・・・その」
「違うんです・・・!!」
「・・・?」
「違うの・・・ゼルガディスさん・・・
 嬉しくて・・・あなたが、あなたが・・・
 傷を、癒そうとしてくれるのが・・・うれしく、て・・っ・・」

そこまで涙声で言い切ると、
途端に堪えていた涙が嗚咽とともに噴出した。
幼い子供のように、声を上げて泣きじゃくるアメリアに、
今度こそ、おれは安堵を覚えた。
ずっと笑顔で蓋をしていた悲しみを、
今源泉とともに流してしまえ。

アメリアの涙がおさまるまで、
おれはずっと、背中の傷を隠すように、
彼女を抱きしめた―――

 

 

 


翌日


電車の中にて、
リナとガウリイの菓子の取り合いや、
アメリアの正義演説や、
フィリアのお茶会とヴァルガーヴの嫌そうな顔といった、
行きとほぼ変わらない情景を横目に、
おれは窓の外を眺めていた。

通り過ぎていく景色の中に、
ふと、昨日風呂で見たような桜の樹が通り過ぎた。
思わず露天風呂での出来事を思い出し、
何故か急いでフィリアからもらった茶を一気に飲み、
少しだけ舌を火傷した。

「なぁなぁゼル。」

リナとアメリアが、眠りこけているフィリアの横で、
なんだか楽しそうに話をはじめると、
ガウリイがチョコチップクッキーの袋を抱え、
いそいそとおれの横に近寄ってきた。
気づくと、ヴァルガーヴがおれの目の前で腕を組んでいる。

「昨日の夜、お前さん、
 お風呂から帰ってくんの、遅くなかったぁ?」

―――やっぱりその話か。
昨日はあの後、風呂の帰りにアメリアを女子の部屋まで送って、
ちょっとその・・・なんだ・・・
2,3話をした後、
なんだかとっても、素敵な上目遣いをされ、
これ以上傍にいたら取り返しのつかないことになりそうだったので、
急いで男子部屋に帰ってきたら、
二人とも既に寝ていた。

「で?」
「で、ってなんだよ。」
「何してたの?」
「風呂入ってたに決まっているだろ。」
「とぼけなくてもいいんだぞっ。
 アメリアもおんなじ時間に風呂入りに行ったの、
 オレ達知ってんだぞっ。」
「ヴァルガーヴ、そこ力強くうなづくんじゃない。」
「で?で?」
「ああん?」
「タノシイ思い出、できたの?」
「・・・・・・・・・・・・あるわけないだろ」
「その間、何?」
「やだ―――!!!ゼルガディスこのやろーい!!」
「違うっ!!!」

景色は過ぎていく。
横目で盗み見たお姫様の笑顔と、
ばっちり目があって、熱くなった頬を、
ヤローどもにまた突かれながら、


湯煙の如く一瞬は過ぎていく―――

 

 

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