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なまこのスレイヤーズ・ゼルアメ中心のブログです。 各種版権元とは一切関係がございません。
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はい。
なまこ設定のスレイヤーズ学園小話です。
完全に夏休み中にお話で、
まぁ、夏休みの日記を読み返す雰囲気でどうぞ。
それと、「学園スレイヤーズ」をカテゴリーわけしました。


つづきから本文です。
興味のある方だけどうぞv

しかし、9月に入ったのにまだまだ暑いですね。
今年は夏から秋にならずに冬が来るって噂ですけど、
どうしましょう涙

こうなりゃ姫にずっと水着ショーをやってもらうしか・・・
あれ?どうしたのゼルガディスさん。
鼻血出しながら、アストラルヴァインって・・・
え?あれ?ぎゃあぁああぁぁぁ―――――!!!!(強制終了)








残暑厳しい夏至がすぎ―――
肌にベトリと夏の空気を纏わりつかせ、
一刻も早く、それをひっぺがえす環境に赴くことのみを考える。

そんなことしか脳裏に浮かんで無かったからなのか、
夏の道路が織り成す蜃気楼の成せる業か、


もう、あり得もしない光景が、
ほんの少しだけ網膜に焼きついた気がして、

少しだけ、振り向いた―――

 


【夏の蜃気楼】

 

 

「「あっづ―――――――――・・・」」

年がら年中、存在自体が暑苦しい、
紅金コンビもとい、リナとガウリイがラクトアイスをむさぼりながら、
学生寮の一室、もといおれの部屋で、さっきから完全にくつろいでいる。

「あのなおまえら・・・」
「なによー!!あたしらがあっ・・・づい中!
 こ―――やって、アイス買ってきてあげたのに、
 なんか文句でもあんの!?いい度胸じゃない!!」
「・・・頼んどらんわ。」
「まぁまぁ!お前さんの好きな抹茶アイスだぞー。」
「・・・何で知っとるんだ・・・」

夏休みまっただ中。夏の日差しもまっただ中。
その日差しが暮れだす頃にはじまる、
毎年恒例の地元の祭に参加するため、
おれたちは逸早く集合をしていた。

元々、集合時間はあと2時間後で、
集合場所も、祭を行う神社の鳥居前だったにも関わらず、
祭好きを地でいくこの2人は、
連絡も、ノックもなしに、凄まじい量のアイスをしこたま抱え、
こうしてくつろぎにやってきた。

つまり、楽しみすぎて待ち切れなかったわけだ、この2人は。

「お前ら、そこで大人しくアイス食ってろ・・・」
「ゼル~。勉強なんかしてないで、トランプでもしよーぜー。」
「勝手におれの都合も聞かずにズカズカ現れたんだから大人しくほっといてくれ。」
「いーじゃないのよー!久しぶりに愛らしい~友人が来てやったんだから、
 もてなしなさい。」
「そーだぞー!ゼル―!」
「・・・どこまでも上から物を言う奴らだなおい。」

そう。何度も言うが現在夏休みまっただ中。
普段はいやだと悲鳴をあげるほど毎日学校で会う友人たちとも、
休みともなれば、ぱったりと姿を消し、残像だけを残した。

最初の2日目までは新鮮であり、多少の物足りなさもあったが、
3日後にはほぼ毎日のように、外へ連れ出されたので、
新鮮さも、物足りなさも、すぐに忘れた。
しかし、元々剣道部の練習は毎日入っていたし、夏合宿も終えた。
その後に連れ出されるのだから、たまったもんじゃない。

そんなこんなで、
おれが生きてきた史上、最も怒涛のような夏休みを過ごしている―――

その、今は中盤を若干過ぎた。
夏休みは残り一週間と少し。
久しぶり、とリナは言っていたが、たかが3日ぶりだった。
ガウリイに至っては毎日会っている。

「ところでさぁ。」

背後でギャースカやかましく、勉強に集中できなかったため、
諦めて抹茶アイスにかぶりついたとき、ガウリイがぼやいた。

「さっきの不審者、まだいるかなぁ?」
「は?」

突拍子もないことこの上ない。

「いやな?さっきリナとアイス買いに行った時、
 ず――――っとつけられてたんだよ。オレら。」
「・・・は?」
「別に危害加えるわけでもないし、外暑いし、お金持ってそうにも見えなかったから、
 めんどくさくてそのままにしてきたわよ。」
「・・・お前、人間としてその発言はどうなんだ?」
「あ。まだいるぞ?」
「「はっ!?」」

ぼんやりと窓から外を眺めるガウリイの後ろに、
おれとリナは急いで駆け寄って、同様に窓から外を見た。
遠くてはっきりとは見えないが確かに人の気配があった。
男が一人、寮の門の前をウロウロしている。

「・・・怪しさ大爆発だな。」
「あれー?オレらつけてたの二人組だったんだけどなぁー。」
「さしずめ、相方は買いだしってとこじゃない?
 炎天下の中ご苦労さん、ってとこだけどー。
 しっかし、そんなにあたしが可愛かったのね
 ・・・あたしって罪だわ。」
「あ。そんなんじゃないと思うぞー。」
「うるさいわよガウリイ。」

まぁなんにしてもだ。

「・・・お前らがここに来てから1時間は経ってるぞ。」
「そんぐらいはここにいるってことでしょ・・・?
 意地でもあたしらと接触する気ね。」
「どーする?」

この、どーする、の意味はたった一つだろう。

「どーやってあの不審者眩ませて、
 アメリアんとこ行こうかしら・・・。」

現在、あのお嬢さんは後1時間後に迫った待ち合わせ時間に向けて、
ルンルンと支度をしているに違いない。
そしてその待ち合わせ場所の神社に着くには・・・
確実に寮(ここ)の前を通る―――

「アメリアにこのこと連絡してお・・・」
「やめときなさい。」
「やめておけ。」

稀にみる、リナとおれの意見が一致した瞬間だった。
アメリアのことだ・・・このことを知ったが最後―――

「正義の鉄槌、食らわせに全速力でやってくるわよ。あのコ。」

そういうことだ。

「そうなったらめんどくさいわ。」
「ははは;元気があっていいじゃない、か?」
「別にいいけど、今日はそんなことさせたくないわ。」
「なんだ?お前にしてはやけに過保護なことを言うな。」
「ふん。今に見てなさいよ。目に物見せてくれる。」

一体なんて会話だ。

「あのコが知らないに越したこたないわ!
 今こうやってあたしらが集まってんだし、
 直接あのコん家まであたしらが迎えに行って、
 別ルートで祭会場まで行く。このプランで行くわよ。」
「で?あの不審者どーやって撒くつもりだぁ?」
「そりゃぁ、手段はたった一つよ。」

窓際にペタリと座る男二人の前で、
ショートパンツからスラリとのびる足を大きく開いて立ち、
布面積の少ないタンクトップを着ている割には胸元が慎ましい、
そんな上半身を踏ん反り返し、どえらそうに、いつもの口調で、

「正面突破よ!!!」

当たり前のことを言った。

 


作戦は、至ってシンプルだった。

『あたしとガウリイは顔見られてるわけだから、
 ゼル、あんたがあたしらが入った荷台を押して門を出て、
 門を曲がった所で抜け出してダッシュ!!以上!』

いくらリナが小柄だといっても、相方が大柄なわけだ。
そんな二人が入る荷台なんてあるものか。
と、文句を言っていたら、寮のおばちゃんから掃除具入れの荷台を借りていた。
・・・こんなデカイ荷台で、おばちゃん達はここの掃除を・・・?
頭が下がる。

「んじゃ。行くぞゼルー!」
「いざ、あんたの姫さんの元へー!!」
「~~~やかましい!!」
「ちょ!!あんまり乱暴に扱わないでよね!?」

モップやらバケツやら雑巾やらに埋もれたお祭りコンビを引きずって、
ガッタンゴットンと不審者に気付かれないように行くには、
あまりにも目立った装備を動かすはめになった。


ガッタンゴットンガッタンゴドン
音はどやかましいが、リナとガウリイは完璧に気配を消している。
全く・・・大したものだ。

おれはうつむいたまま、掃除具入れを押しながら、
掃除を手伝っている生徒を装い、門に近づいていった。
チラリ、と、おれは不審者たる奴らの顔を盗み見る。
2人組らしいが、今は1人。
そいつは中々の大柄で、中年くらいの、男―――
袖で吹き出る汗を拭っているため、顔はよくわからない。

その横を、通り過ぎ、おれは完全にそいつに背を、
向けた・・・
よしっ――

 

「―――おい!!」

 

――――なにぃ!!?
気付かれた、だと・・・!!?

「なんであんたが声かけられてんのよ!?」
「ゼル!しゃがんで、ろっ!!!」

おれは掃除具入れの荷台の取っ手をつかんだまま、
その中から、バケツとモップを持って飛び出した、
我が友人たちの姿を確認した―――

バケツを持ったリナは、飛び出した勢いそのままで、
大柄のその男よりはるか高く飛び上がり、やつのの頭にそれを、
力いっぱい叩きつけるように被せた!

ガッゴン!!!
「いっでぇえ!!」
「ガウリイ!」
「おう!」

その声を合図に、リナの後ろからモップを携えた、
ガウリイが―――!

「そ~~・・・れっ!」
カコーン!!

イイ音が鳴り響き、それがバケツを被ったままの不審者の、
バケツ(頭)をモップで殴った音だとわかった。
後ろに倒れそうな不審者を横目に見ながら、

「行くぞ、ゼル!」

ガウリイの物凄い力に引きずられ、
おれたちは計画とは多少違えど、
不審者を撒いて門を曲がることに成功した。


「ったく・・・なんで気付かれたのかしら・・・。」
「まぁいいじゃないか、予定通りあいつら撒けたんだから。」
「というか・・・あいつらを攻撃するのアリだったなら、
 あんなめんどくさい真似せんでも、
 はじめっから襲いに行けばよかったんじゃないか?」
「バカ言ってんじゃないわよ!あれは予定外の行動なのよ!!?」

そう。予想外の行動、っていうのは本当で、
門を曲がったらちゃんとおばちゃん達に返しに行く予定だった荷台を、
そこに放置するはめになったのだ。
おばちゃんごめん、と言いながら3人で全力で走りきったのは、
さっきのこと。
おれ達3人の全速力に、追いつける奴の方が珍しいため、
撒くことには成功。
しかし、炎天下の中の全力疾走。
さすがに、辛い―――

「こうなりゃ、アメリアん家でなんか冷たいもの出してもらわなきゃ、
 あたしらの苦労が報われないってもんよ・・・」
「・・・おいおい。」

やっとの思いで辿り着いた、セイルーン家。
相変わらず・・・ひどくデカイ。

『はーい!・・・ってえぇぇ!!?
 リナッ!?皆さんもいらっしゃ・・・
 わわわわわたし、集合時間間違えてましたか!?』
「あー。違う違う。ちょっとなんか冷たいもん出してよ。」
『えぇ!??わわわわかりました!?すっ・・・すぐ行きま』
「いいわよ!あんたはゆっくり準備してなさい!」
『はっ・・・はぁ・・・。』

インターフォンを押すと、
1人で大騒ぎするアメリアの声が響き渡った。
リナがなだめると、大人しくはなったが、
セイルーン宅内は、少々騒々しい雰囲気が流れていた。

おれ達は、これまたデカイ客間に通され、
使用人からアイスティーと、ゆずとレモンのアイスクリームをもらい、
その少々騒々しい雰囲気の中、待機を余儀なくされた。
そんなことにも頓着せずなリナは、楽しそうにそれらを平らげる。

「アメリアん家は涼しいなぁー・・・」
「にしても、あいつにしては珍しいな。
 おれらが来ているのに、用意がまだとはいえ、
 一度も顔を出さんとはな・・・。」
「何ゼルちゃん。もうすぐ可愛い可愛いアメリアちゃんに会えるんだから、
 ちょっとぐらい我慢しなさいよ。」
「だから、そういう意味では・・・」

「すみません!お待たせいたしました――!!」

一瞬、花の匂いがした。
ドアから少し頬を染めて出てきたのは、
紺色地に大輪の花が咲いた浴衣を、朱色の帯で締め、
高いところで括られた髪は、薔薇の髪留めで綺麗にまとまっている。
そんな、アメリアだった。

「おお―――!!アメリアー!浴衣かー!」
「へぇ!結局そっちの浴衣にしたんだ!」
「すみません。お待たせしてしまって・・・!」
「いやー!こっちこそ、焦らせちゃってごめんなぁー?」
「いいえ!そんなそんな・・・!!」
「ははっ!それにしても、ずいぶんべっぴんさんになったなぁー!」
「えぇっ!!?ガウリイさんっ!!そんなこと・・・!」
「あっははは!可愛いぞぉ?なぁ、リナ。」
「あたしが選ぶの手伝ってあげたんだから、可愛くないわけないでしょ?」
「えへへ。ありがとうございます。」
「おい!ゼル?ゼール~~?」

おれは今回、地元の祭になんぞ行くのは嫌だった。
人ごみだし、何かと目立つし、変な輩が多いし、
碌なもんじゃない。だが、
こいつを連れて歩けるんなら―――

・・・いやいやいやいや

あぁ、リナがアメリアを暴れさせたくなかったのも、
目にもの見せてくれる、ってのも、このことだったのか――

・・・いやいやいやいやいや

そういうことを言いたいんじゃない。
そうじゃないんだ。わかっているんだ。
ただ一言、本当のことを言えばいい、わかってるんだ。
だが。

「・・・あ?」
「ゼル~。ほーら!アメリア可愛いぞ?」
「ガッガウリイさんっ!!」
「・・・あ?・・・あぁ。」

「・・・悪くは、ない。」

わかるだろ。
おれにはこれが精一杯なんだ―――


日が暮れて、真昼の暑さも随分おさまり、
風がふわりと冷たく、心地良い。
目の前では、リナとガウリイが何を食べるか、何して遊ぶか、
いつもより一層愉快に話をしている。
隣では―――

「ゼルガディスさん!お祭り、楽しみですね!」

楽しそうに笑う、いつもより一層、愛らしい彼女がいる。
心地が、良かった。


橙色の光を放つ提灯の明かりが、所狭しと浮かんでおり、
日も暮れたというのに、昼間のように明るい。
しかし、昼間の白い光とは違い、
紅い光が混じっていることで、
その場の陰影が随分はっきりしている。
どんちゃんと、太鼓と笛と人間の声が、賑やかに音を立てている。

「うひょ―――!賑わってんなー!!」
「うわあぁぁ・・・何から行きますか!?」
「そうね、とりあえず・・・」

「「手当たり次第いくぞ―――!!!」」

真昼の攻撃時といい、今といい、
本当にこのコンビの息はぴったりだ。
走り出すタイミングも同時に、リナとガウリイは、
近くのたこ焼き屋、わた菓子屋、焼きそば屋、と、
目で追う暇もなく、順調に転々と暴れまわっている。

「・・・わたしたちも、行きましょうか?」
「多少、あいつらと離れて、な。」

悪目立ちする二人からさり気なく離れられ、
しかも謀りもせず、彼女と二人っきりのポジションを掴むことが出来た。
やっと、やっと運が向いてきた気がする。

しかし、それも長くは続かないことは、既に承知だった。
元々おれには運がないのか、
運ではなく堅実に生きていくしかないのか、
最早誰にもわかりゃしない―――

「ゼル・・・気付いているか?」
「あぁ・・・。」
「ったく、しっつこいっつーのっ!」

口の周りにお好み焼きのタレをつけながらも、
片手に杏飴を持っていても、
真剣で男前な親友二人がおれに囁いた。

いるのだ。そう。
賑やかな人ごみの中に、おれ達の後方に、
―――あの、不審者が。

「ねぇ、しかも・・・あっちの方よねぇ?」
「オレらが殴った方だろう・・?」
「おれは、お前らが殴ったから、
 文句言うためにつけてるのではないかと思うがな・・・」

リナとガウリイが攻撃した方の不審者であろう。
顔面を包帯で覆っており、あの攻撃が本気であったことを物語っている。
ヤツも、もうおれ達から隠れる気もないのか、
顔面包帯であるが故に、周りが避けまくってくれることを良いことに、
力強くおれ達に向かって闊歩してくる。
―――完全に、不審者レベルがアップしていた。

「何ですか?一体何なんですか!?何したんですか皆さん!!」

この状況に1人だけ全くついてこれないアメリアだけが、
不審レベルのあがった包帯男に脅えていた。

「とりあえず撒くわよ!」

リナの一言で、おれ達は一斉に脚力をあげた。
正直、この人ごみで暴れるわけにもいかない。
しかも、相手は遠目だし顔面包帯で覆われているから良くわからないが、
おかんむりである確率は、高い。

「もう!何を、しているん、ですか!!」
「・・・す、すまん。」

小走りしながら、あらかた事の成り行きを説明すると、
案の定お姫様に怒られた。

「なんで呼んでくれなかったんですか!?」
「そっちか。」
「あんたねぇ。あたしは、あんたを心配してんのよ。」
「「え?」」

おれとアメリアは、同時に怪訝そうな声をあげた。

「あくまであたしの想像だけど、あいつらとすれ違った時、
 あたしら間違いなくゼルとアメリアの話してたのよ。
 もしかしたら、あんた、狙われちゃったかもねーって、ね。」

リナのいうあいつらとは、不審者のこと。
あんたとは――――アメリアのこと。
確かに、アメリアは財閥の、セイルーンの娘であって、
多少なりとも、顔と名前も知られていて・・・

「あんた、小さい頃、人攫い未遂にあいすぎたから、
 フィルさん、武術習わせたんでしょ?」

―――おい!!

「ちょぉ!ゼルッ!!」

リナの声もおざなりに、おれはアメリアの手首を掴んで、
人ごみの中にとびこんでいった。

「ゼルガディスさん!!」

この華奢な手首の彼女を守りたい。
今まで、ずっと守ってもらった大切な人を、
今度は、今度はおれが―――

おれが守りたい


「ゼルガディスさん・・・!
 つ、疲れましたぁ・・・!!」
「す、すまん!!」

アメリアからの抗議の声が聞こえるまで、
浴衣で走りにくいはずの彼女を走り回らせてしまった。
周りはまだ人ごみで、
小さなアメリアを隠すにはここしかないと、
思わず飛び込んでいったのだが・・・。
しばらく彼女の息が落ち着くまで、
おれは周りに警戒しながらゆっくりと歩きだした。
不審者どころか、リナ達さえも撒いてしまった。

「んもう!ゼルガディスさん、いきなりなんですもん!」
「・・・悪かったって。」
「わたし浴衣なんですよー!?走りにくいです――!!」
「~~悪かったって・・・。」
「まだお祭りの屋台、全然見てないんですよー!?」
「そんなこと言ってる場合か!?」
「だって!!」

思わず声を荒げたら、より一層荒げた声で返された。
そのいきおいは花火の如く、一瞬あがったと思ったら、
すぐに勢いを失くし、何やら俯きながら
ごにょごにょ何かを言っている。

「なんだ?」
「・・・るん、でしょう?」
「あ?」
「・・・だって・・・」

「ゼルガディスさん、守ってくれるんでしょう!!??」

その顔はスイカのように真っ赤だった。
つられて、おれの顔面も熱を持ち始める。

「~~~もう!こんな言葉、
 正義のヒーローがいうセリフじゃないです~~!!
 そ、そうです!!ゼゼゼ、ゼルガディスさんの力と、
 わたしの力を合わせて、やっつけましょう!!そう、それです!」
「何がそれです、だ・・・。」

真っ赤な顔でまくし立てる様に言うアメリアに苦笑をし、
おれは近くの屋台に目を向けた。

「おっさん。これもらう。」
「毎度ー!」
「え?」
「ほら。これでもつけてろ。」

ぽかんとしたアメリアに手渡したのは、
なんとか、という少年向けのキャラクターのお面。
・・・こういった類のものが好きだからな、こいつは。

「これでもつけてヒーローごっごしてろ。」
「むん!!失礼な―――!!」
「顔、隠せるだろ?」

そう、少しでも不審者を撒けるように、
少しでも、アメリアが祭を楽しめるように、
少しでも、二人でいられるように―――というのは内緒だ。

「あっ・・・ありがとうございますぅ。」

もちろん、おれの思惑など知らないアメリアは、
不本意そうな顔で、それでも律義に礼を述べた。

「う~~!!えいっ!!」
「―――――っ!!がっ!!??」

完全に油断していた。
思わず、何処から出たのか変な声を出してしまった。
何を思ったのか、完全にお面をかぶったアメリアが、
おれの腕にしがみついてきた。
―――たまったもんじゃない。

「おい!アメリア!!」
「はぐれない為に、くっついておくべきなんです!!」
「べき、なわけないだろう!!?」
「だって、服掴んだらのびちゃいますもん!!」
「のばすな!!」
「駄目・・・ですか?」

ふいに不安そうな、声を出した赤いヒーローの顔。
それに思わずふき出しそうになったが、
その、掴んだ腕が小刻みに震えている、
必死なヒーローの顔が、見たくなった。
ゆっくり、ゆっくりと、お面を外すと、
案の定、真っ赤な顔で、涙目で、大きな瞳を凝らしていて、
大変、可愛らしかった―――

「なんて顔、してんだよ。」
「・・・どんな顔ですかぁ?」
「・・・ひっどい顔。」
「~~~ひどいですぅ。」
「冗談だ。」
「冗談じゃないですぅ。見えてますもん・・・。」
「?」
「ゼルガディスさんの目の中に、映ってますもん・・・。」

そういえば・・・
アメリアの瞳の中にも、
惚けて全く締まらん顔の男が映っていた―――おれだ。

「顔・・・近いですね。」
「お前の声が、聞き辛いからだろ・・・?」
「じゃぁ・・・もっと大きい声で、話します?」
「お前は、どうしたい・・・?」
「えぇっ・・・うーん・・・」
「ん・・・?聞こえんぞ・・・。」
「ゼルガディス、さん・・・」
「ん・・・?」

凶悪な、距離だった。
アメリアしか、見えなかった。
だが、離れる気にもなれなかった―――

このままもっと近づいたら、
どうなるんだろうな・・・。


夏の熱に浮かされて、このまま、
――――――このまま

 

 


「ゼルガディス!!!」

リナの声でも、ガウリイの声でもなかった。
聞き覚えのある、声だった―――
今、その声が、聞けるわけがなかった。
それは、少し遠くにいたあの、包帯男から聞こえた。

「やっぱり・・・やっぱりお前、ゼルガディスだよなぁ!!」

おれの目の前に来た、包帯男は、
乱暴に、自分の顔に巻かれたそれを外しだした。

「俺だよ!!俺!!」
「お~~い・・・!!」

更に、後ろからもう一人・・・

「お前は歩くのが速いんじゃ・・・。」
「あんたが遅いんだろう~!?ほーら、こいつ、
 やっぱりゼルガディスだったぜー!」
「おおおぉぉ!!!やはり・・・!やはり坊ちゃんでらしたか!!
 ご無事で・・・ご無事で何よりです~~!!!」
「おいおい。こんな道の真ん中で泣くなよなぁ?」

おれに抱きついてわんわん泣く男と、
その横でおれの頭をぐしぐしかき混ぜる男。
その様子を不思議そうに、
でも優しく微笑みながら見るアメリアの元へ、
やっとリナとガウリイが追いついてきた―――


「・・・ゾルフ・・・ロディマス・・・」

 

「ゼルんとこの、研究員仲間?」

現在、場所はセイルーン家。
包帯を取った男―――ゾルフの顔は、
リナとガウリイにやられた傷がまだ大きい。
ついで、積もる話もあるため、一度話を整理するため、
ここに集まった次第である。

「でも、ゼルんとこに住んでた人って、ゼル以外全員・・・」
「そ。でも俺とロディマスは、ちょーど、出張中だったわけ。」
「出張・・・?」
「あぁ。一週間ほど、協定相手との会談と、施設調査を兼ねてな。
 帰ってきたら、もう・・・」
「そこで何があったかは、新聞やテレビで知ってのう。
 せめて、せめて坊ちゃんの安否を知りたかったんじゃが・・・
 こうして生きておると知ったのは、つい最近だったんじゃ。」

ずずず、とロディマスのすすった緑茶の音だけが響いた。

「わしらは、手当たり次第に、病院やら警察やらをまわって、
 坊ちゃんの所在を求めたんじゃが、どこも知らぬ存ぜぬでのう。
 ところが、今頃になって、病院側から連絡があったんじゃ。
 レゾの事件での生き残りを、保護した――とな。」
「なんでか、わかるか?」

ゾルフはソファに大きく腰かけ直した。

「病院側に、守られてたんだよ。お前は。」
「・・・!?」
「当時、レゾが起こした事件で、生き残った者はいない、
 そう世間には公表されたんだ。
 だが、実際、お前は生き残っていて、姿も変わった。
 唯一の生き残り、姿形も変わった、哀れな少年。
 しかも、レゾの直接の血縁者ときたもんだ。
 世間は、お前を決してほっときはしなかったろうな。」

愕然とした。
病院の者は、おれの許可無しにこの身体にして、
別の部屋に監禁し、リハビリが終わってもおれを放置し続けた―――

しかし本当は、やむを得ない方法で、おれの命をなんとかつなぎとめ、
世間の好奇の目に合わせない為、誰の目にも届かないところで保護し、
周りが落ち着くまで待っていた、というのか―――?

「ここまで聞きだすのに、随分時間かかったがな。
 レゾの研究員だったことを証明したら、
 やっと口を割ってくれたよ。
 病院側は、セイルーンの方に引き取られた、
 そこまでしかわからん、って言ったから、
 直接ここにも来てみたんだが・・・
 何せここん家は、面会状たるものが無きゃ入れんらしいし、
 病院側にそれを作ってくれるよう頼もうにも、
 あんまり俺らのことを信用してなかったもんだから頼めなくてな。」
「そしたら今日、この嬢ちゃん達に会っての。」

ロディマスが、リナとガウリイに目配せをした。

「話の内容から、はっきりとゼルガディスって聞こえたからな。
 そんな名前の奴なんて他にいないだろうし、
 こりゃ確実だと思って、話し聞こうにも、
 この餓鬼共、全く隙出さねえったらねぇよ可愛げねぇ。」
「・・・あんた・・・ちょっとニヒルなおじさまだからって、
 調子に乗ってんじゃないわよ・・・。」
「うっせーなぺちゃガキ!おらぁ、お前に殴られたこと、
 完全に許しちゃいねーんだからなぁ!!」
「ぺちゃ・・・!!なんですってぇ!!!??
 殴られて当然でしょ!?三流の癖して―――!!!」
「あんだとごらあぁ!?」
「買い物終えて戻ってきたら、ゾルフがのびてたのには
 驚いたのう!ほっほっほ!」

リナとゾルフは、完全に犬猿となったな―――

「とにかく、坊ちゃんが無事で、本当に良かった・・・。」

隣でぎゃーぎゃーまだ口論していた、
リナとゾルフも、このロディマスの一言で瞬時に黙った。
おれはさっきから、何も言えていない。
こいつらに、何も声をかけていない。

元来、ゾルフとロディマスはレゾの一研究員だったが、
実際はおれの親代わりのようなものだった。
1番共に過ごす時間も多かったし、
1番おれを大事にしていてくれた。
小中の授業参観も、ゾルフとロディマスが交互に来てくれたし、
運動会の時も、2人を筆頭に何人か研究員連れて、
応援にも来てくれた。
レゾがいなかったら、あの家ではおれが1番偉かったから、
他の研究員には、かなり腫れもの扱いされたが、
この2人は、おれへの尊敬の上に、親しみを乗せてくれた。
大切な、家族なんだ―――

だから、余計に、
今目の前にこいつらがいることが信じられなくて、
死んだと思っていた、こいつらがここにいて、
未だ、夢見心地なんだと思う―――

「ところで、セイルーンのお嬢様?」
「・・・ん?ふえっ!!?わたしのことですか!?」

呼ばれ慣れていない為、一瞬誰の事だかわからなかったと見える。
完全に呆けていたアメリアは、慌ててロディマスに向かった。

「お父様は、御在宅でしょうか?」
「あっ・・・もうそろそろしたら、帰ってくると思います。」
「そうですか。もし、ご都合がよろしかったら、
 お会いしたいのですが、待たせてもらっても、よろしいかな?」
「え・・・はい!喜んで!!」

じゃぁ、ちょっと父さんにそのことを連絡してきます、と、
言いながらアメリアはパタパタと部屋から姿を消した。

「じゃ、あたしらそろそろ帰るわね。」
「え・・・?」
「腹減ったしなぁー!そろそろ帰るかぁ!」

アメリアの後ろ姿が完全に見えなくなったところで、
リナとガウリイが同時に立ちあがった。

「これ以上ここにあたしらがいる理由はないわ。
 フィルさんに挨拶はしたいけど・・・長そうだし。
 何より、あたしこの男嫌いだし。」
「それはこっちのセリフだくそガキ。」

キッっと、リナとゾルフがまた1つ睨みあい。

「ゆっくりしてこいよ?ゼル。」

ガウリイのふんわりとした笑顔と言葉を残し、
じゃ、アメリアによろしく、といって清々しく帰って行った。
残されたのは、3人。
先ほどまで騒がしかった室内が、
急に静かになり、少しだけ静寂を持て余していると、

「ゼルガディス。」

ゾルフが声を発した。
その声は、いつになく真剣で―――

「で?どっちなんだよ?」
「・・・何が、だ?」
「決まってんだろ!?あのじゃじゃ馬娘か、セイルーンのお姫さんか、
 お前が気に入ってんのはどっちだって聞いてんの!
 俺的には、断然セイルーンのお姫さん押しだけどなっ!」
「なっ――――――!!?////」
「坊ちゃん、昔は女性にまっっ・・・たくご興味なかったのに、
 月日は人を成長させるのですなぁ。
 ロディマスは嬉しゅうございます!!」
「いや・・・だから・・・!」
「それにしても、お前もすんごいのに惚れたよな!?
 セイルーンのお姫さんだろう?
 おい、完全に逆玉姫の男バージョンじゃねーか!」

そういえばゾルフは、シンデレラのこと逆玉姫とかいって、
おれが小さい頃よく聞かされてたっけ・・・

「今日もお前、俺らから姫さん守るために、
 ず―――――――――――っと一緒にいたじゃねーか!
 おい、やるな色男~。」
「いや、だから・・!おれは、別に・・・」
「今更惚れていないとおっしゃるのは許しませんよ。」
「ロ・・・ロディマス・・・」
「坊ちゃんがいつかわしらに女性を紹介しにくること、
 夢にまで見ましたぞぉ!!」
「んなもん夢に見るな!///」
「で、もうヤッたの?」
「~~~んなわけないだろっ!!?///」
「おい、まさかまだ気持ちすら伝えてねぇとか言わないよなぁ?」
「・・・そのまさかだ。」
「おいマジかよ!!?俺はお前をそんなぐず男に育てた覚えはねぇぞ!?」
「育てられた覚えもない!!」

「お待たせしましたー!」

当事者(アメリア)が戻ってくると、
瞬時にして静寂も戻ってきた。

「どうなさったんですか?わたしに気にせずお話してて下さい!
 廊下の手前から、楽しそうな声聞こえてましたのに。」

―――勘弁してくれ。


フィルさんは、そこからほんの数分後に姿を現した。
相変わらず図体のデカイドワーフにしか見えないが、
ゾルフとロディマスを見たとたん、あの山賊の笑顔を向けた。

「あなた方が、ゼルガディス殿の・・・!」
「はっ。わしはロディマス、こちらはゾルフと申します。
 今の今まで、ゼルガディスがお世話になったこと、
 深く、深く感謝しておる所存でございます。」
「いや!わしが勝手にしたことじゃ!
 礼を言っていただくことではござりませんぞ!」

そう言って、要約腰を落ち着ける大人3人と、
おれと、アメリア―――
なんだこの、プレッシャーは・・・

「そうでらしたか・・・
 これはまた、難儀でありましたなぁ。
 わしも、もう少し詳しく調べておけば、
 もう少し早くゼルガディス殿とお会いできたやも知れませんなぁ。
 勝手に連れ出してしまって、申し訳ない。」
「何をおっしゃいます。めっそうもない!
 こちらは感謝してもし足りません!」

フィルさんにも1から全て説明すると、お互いに恐縮し合う。
感謝してもし足りないのは、おれだって同じである。

「だが、しかし本当に良かった・・・。
 あなた方が無事で、本当に良かった。」
「勿体ないお言葉です。」
「何を言います。どれだけゼルガディス殿が救われたか。
 あなた方の存在は、それほど大きいものなのですぞ!」
「いや。ありがたいですなぁ。」

フィルさんは、どうも・・・
どうも、おれの言えなかったことや、
おれでも気付かなかった大事なことを言葉にできる傾向がある。
大変嬉しく思うが、同時にその言葉が引き出せない、
自分に憤りも覚える。

「これからも、ゼルガディスのこと、
 良くしてやっていただけますでしょうか?」
「それはもちろんのこと!任せて下され!
 ところで、そなたらはこれから・・・」
「わしらは、最後の調査費で細々と暮らしております。
 もう少し今の生活が落ち着きましたら、
 何かしようと、考えております。」
「そうでしたか!何かありましたら、
 遠慮なくまた訪ねてきてくだされ!」
「はい。ありがとうございます。」

ほぼ、フィルさんとロディマスの対談は、
これにて終了となった。

「ゼルガディスさん。」

帰る時、アメリアに呼び止められた。
その顔は、泣き出しそうな笑顔。

「どーした・・・?」
「だって・・・ゼルガディスさん、泣かないから!」
「おいおい。なんでおれが・・・」
「嬉しくないんですか?」

今度は完全に涙を流したアメリアが、
おれの服の裾を握りながら、そう言った。
おれは目の前を歩くゾルフとロディマスに目線を向けた。

「嬉しくないと思うか?」
「・・・いいえ。」
「正直、まだ信じられないんだ。
 ずっと、今の今まで死んだと思っていたあいつらが、
 いきなり現れて、なんて言っていいか・・・
 おれが何か言ったら、目の前が崩れて、
 本当は夢でした―――みたいになるのが、怖いんだ。」
「・・・ゼルガディスさんにしては、
 ファンタジーなこと考えるんですね・・・。」
「ファンタジーか・・・?今のが・・・」
「大丈夫ですよ。」

そう言って、小さな手をおれに絡めてきた。
その温もりが、薄暗い周りを照らすように、
温かかった。

「ほら、夢じゃないでしょ?」
「そんなふにゃふにゃの手で触られても、な。」
「じゃぁ、お水でもかけてあげましょうか?」
「いや。結構。」

くすくすと笑うアメリアの手が離れて、
その冷たさが、夢ではないことを物語った気がして、
少々胸が痛んだ。

「ゼルガディスさんは、あんな素敵な方々と一緒に育ったんですね。」
「素敵ねぇ・・・あいつらに言うなよ?調子に乗るから。」
「ふふふ。そんなこと言わないで下さい!」
「どーだかなぁ。じゃぁ、長居して悪かったな。」
「あっ・・・ゼルガディスさん!!」

もう一度振り返ったら、
目の前は真っ暗で、少々周りが赤み出していた。
ちょっと冷静になったら、
今日アメリアに買った、
赤いヒーローのお面を被されたことがわかる。
アメリアが被せているため、
完全に目の位置がずれていて、目の前は真っ暗。
だが、ふと、近くにアメリアの気配が一瞬だけ訪れ、
すぐに離れたと思ったら、お面も取られていた。
何事かわからないおれの目の前には、
祭開場でみたのと同じ、真っ赤な顔のお姫さまが。

「・・・何をしとるんだお前は?」
「いいいいえ!!!ええーっと、あの、これ!
 すごく気に入りました!!ありがとうございます!!!」
「?あぁ。気に入りそうなの選んだからな。」
「あ・・・ありがとう、ございました。」

真っ赤な顔で俯く浴衣の彼女は、
極上なまでに愛らしかった。
そんな彼女は、現実に、おれの目の前にいるんだ―――


そんな彼女に別れを告げ、
ゾルフとロディマスに駆け寄る。
なんだか、夢じゃないと、彼女が教えてくれたおかげで、
やっと、やっと言葉が言えそうだ。

「坊ちゃん、良かったですねぇ。
 素敵な方によくしていただいて。」
「しっかし、あの親子似てねぇよなぁ。
 最初出てきたとき、笑い抑えるの必死だったぜ。」
「・・・だからゾルフはしゃべらんかったのか。」
「それにしてもよ、むふv」
「なんだ、気持ち悪い。」
「いやいや。大概、一方通行でもなさそうじゃん?」
「は?何の話だ?」
「いーや。なんでもねーよ!
 お姫さんのことで相談があったら、いつでも言えよ!」

バチコーンとウィンクされ親指をおったてられたが、
ゾルフお前、その性格のせいで昔30戦30敗だったって聞いたぞ?

「そうそう。これが、わしらの連絡先です。」

そういって、ロディマスから渡されたメモには、
住所と携帯番号・・・。

「御迷惑でなかったら、いつでも遊びに来て下され。
 電話からでも、いつでも連絡を下され。
 たまに、このロディマスに、元気であることをお伝え下され。」

俺にも伝えろよー!と後ろでぎゃーぎゃー騒ぐゾルフの前で、
ロディマスが、いつもの笑顔でそう言った。

「・・・坊ちゃん。もう、傷は大丈夫でしょうか?」
「あぁ。もう、大丈夫だ。」
「にしても、お前も変わったよな。見た目も、中身も。
 今の方が、幾分男前だぜ?」
「そうか。お前らは変わらないな。」
「ちったぁ、男前になったとか言えよなぁー!」
「あぁ。そうだな。・・・頻繁に連絡するから。
 心配し過ぎてまた寮の前ウロウロしてたら、
 リナ達に攻撃されるから気をつけろよ。」
「ほっほっほ!かないませんなぁ!」

ちょっと気まずそうなゾルフも、笑っているロディマスも、
嬉しそうだった。

「それじゃ坊ちゃん、わしらはこの辺で。」
「いつでも遊びに来いよ。」

寮の近くの十字路でおれとは反対側に曲がる2人。

「ゾルフ、ロディマス。」

2人が肩越しに振り返ると、
1番言いたかったことを言葉にした。

「お前ら、生きててくれて、ありがとう。」

目を見開くゾルフ、瞬時に眼球をぬらすロディマスに、
もう1度また連絡する、と言い残すと、
おれはそのまま、寮の自分の部屋まで駆け出して行った。

全力で走って、さすがに息も絶えて、
そのままベットに倒れこんだ。
そしてそのまま、ガウリイが夕飯の誘いに来るまで、

少しの間だけ、ちょっとだけ、泣いた―――

 

 

おれはまだまだ子供で、色んな人に助けられて生きている。
もう、今のおれなら理解できる。

それは経済的にも、精神的にも―――
そんな人たちにおれは一体何をすることができるのか?
一昔前の、自分のことしか考えられなかったおれには、
考えもしなかったことだろう。

だが、こうして毎日過ごしていること。
生きていることで、十分、恩返しにはなっているのだ。
今のおれには、まだそれしか出来ない。
今は、それでいいんだ。

そんなことをぼんやりと考えた、夏の夜だった。

 


後日、ゾルフとロディマスから、メールが届いた。

『早く幼子の顔がみとおございます。』
『若いうちに、さっさと経験しておけ!』
「・・・・・」

隣でアイスを食っていたアメリアに気付かれないよう、
だが確実に指に力を込めて、
2人に同時に返信をした。


『大きなお世話だ!!!』




 

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