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なまこのスレイヤーズ・ゼルアメ中心のブログです。 各種版権元とは一切関係がございません。
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なまこ的学園パロの小話です。
つづきからこそこそと読めます。
興味のあるかただけどうぞです。

今回はゼル中心の過去話。
こんな経由を経て今に至っております。

もうこの際だから、学園パロも続けちゃおうかな・・・
カテゴリとかも別に作っちゃおうかな・・・

そんなこと考えてます。

続きから本文ですー。






燃え盛る業火―――
脳味噌にこびりつきそうな薬品のどぎつい匂い――
叫び声呻き声―――

そして、全身が、燃える感触―――



久しぶりに思いだした感覚だった。





ガチャ
「ゼルー、昼飯食いに行こうぜー。」
「あぁ。」
「へへへ。」
「何がおかしい。」
「お前さん、ノック無しに部屋に入っても怒らなくなったなーって思ってな。」
「・・・・・あの頃は、な・・・」
「ドア叩くことなんか覚えてらんないからなーオレ。」
「・・・お前ぐらいだろ。」


休日の男子寮の中は本当に静かだ。
平日の男どもの慌ただしさといったら、まるであの不良キラーが暴れているようで。
今はそれが嘘のように、穏やかな日の光のみが場を支配している。
物忘れにおいて右に出るものはいない、そんなガウリイだが、
毎日忘れることなく昼食の誘いにやってくる。

そんな日常と全く同じようで、そうではない休日。
以前のことを、久しぶりに思いだすには、
お誂え向き、なのだろうか。



【昼下がりのノスタルジア】




おれが生まれて間もなく両親は死んだ。
不慮の事故、といわれているが実際本当かどうかも疑わしい。
だからすぐに、おれは唯一の血縁者へ預けられることとなった。

天才化学者、レゾ=グレイワーズの元へ―――

レゾと大勢の助手たちとおれで、それなりに生活をしていた。
義務教育が終わろうとするそんな春先に、
おれの運命は業火の中にぶち落とされた。


天才天才といわれ続けてきたじじいが、
とうとうプッツン切れてしまったのだ。


生まれたときから盲目で、光を見たい、光を見たいと、
毎日口癖のように言い続けていた、そんなじじいが、
その想いを叶えようとして、全てを燃やしにかかった―――

そう。
光の根源である、太陽の光が見えないのなら、
炎が生み出す光なら、見ることができるのではないだろうか?と。

そんな単純で浅墓な考えが生み出した、大惨事だった。

研究所でもあった我が家は、見事に全焼。
そこにはもう、死者しかいなかった。


その中でおれは、最も危険な重体者(生き残り)であった。


全身の皮膚が、焼かれて爛れて、使い物にならなくなっていたはずなのに、
心臓と脳味噌は奇跡的に無事だったのだ。
しかし、話し合い相談する余地もなく、
残りわずかな命の灯を未練がましく持ち続けた少年に施された処置は、
全身の皮膚移植だった。

幸い、皮膚が無事な死体は山のようにあった。
しかし、炎の中から取り出された死体(材料)では、
やはり皮膚の損傷が全くないものは一人もおらず、
健康な皮膚を選びとって、貼り絵のように、
切って縫い合わせる大手術をするはめになった。


結果が、これだ。


全ておれの意識がないままに行われた大人の遊び。
気付いたおれは、完全に化け物と変わり果てていた。

残酷な奇跡は、おれを化け物として生かす道を、用意していたようだ。



硝子に己がうつるたびに、それを割っていた時期が続いた。


生きていただけでも奇跡、だと?
命が助かっただけでも幸運、だと?
ならこの常人とは決していえなくなった異形の身体は奇跡なのか?
おれの姿をみて、泣きだし脅える人々の視線は幸運なのか?


何故・・・火災の炎は消した癖に、
おれの命の炎も消してくれなかったんだ―――


炎なんか、ついたら碌な事がないんだ。
消してくれ・・・消してくれ消せ消せ消せ―――!!!



そんな想いを抱えながら、硝子にうつるおれを砕いて殺した。




そんな日に流されながらもがいていた時期に、
あの人が現れた。

「この病院ですかなー!?全身皮膚移植の少年がいるってのは!!」
「代表、困ります・・・もっと声落として下さい、ここは病院です。」

この頃からおれは全身包帯男となり、都市伝説のような存在として、
病室の隅っこで、音もたてず、存在もうやむやになるような生活を送っていた。
別に病院にいなきゃいけないわけではない。
もう日常生活を送れるほど、身体の動きだけは万全で、
リハビリも済んだ。
しかし、まだ一つの病室を充てられている理由はただ一つ・・・

もう誰もおれに関わりたくないのだ。

そんな矢先に、おれの存在を聞きなれぬ大声が喚き散らした日にゃ、
激怒する前に、驚愕して何をすればいいか思考が追いつかなかった。

「こっこか―――!!!」
「だから代表!声でかいっつの!!!」

バーンと景気よくドアが開き、現れた姿に、今度こそ息をのんだ。
――――なんだこの、ドワーフ・・・

「お主が、ゼルガディス=グレイワーズ君じゃな?」
「・・・・っは、はぁ・・・」
「わしの名は、フィリオネル=エル=ディ=セイルーン!!
 彼のレゾ=グレイワーズ殿のお孫さんに、一つ提案を持って来たんじゃ!」
「は?」
「高校に進学せんのかお主!!」

話が、唐突すぎる。

「説明しても、いいかな?グレイワーズ君。」

先ほどから横にいた秘書らしき中年の男性が、
絵にかいたような苦笑を浮かべ、ベットから動けないおれに目線を合わせてきた。

「フィリオネル代表は、レゾ先生とちょっと繋がりがあってね。
 いや、本当にちょっとなんだけど・・・一回パーティーで会ったくらい?
 なんだけど、あーゆーことになって、酷く心を痛めたんだよ。
 で、レゾ先生のお孫さんが生きていて、病院に缶詰だって知って、
 もう、この人。居てもたってもいられなくなってね。
 君に会いに来た、ってわけさ。」
「余計な御世話だ。」

瞬時に出てきた拒絶。
だいたいわかった。
要は、情けをかけに来たんだ。わざわざ。
作られたような不運に見舞われた、年端もいかない少年に、
大人の同情をふりかけて洗脳しに来た、ってわけか。
―――そうはいくか。

「うん。君が賢いことは知っている。」

おれの拒絶に物ともせず、秘書は淡々と口調も変えずに切り返した。
どうせ、見世物にして、おれの人生で遊びたいんだろう?
―――そうは、いくか。

「君、小学校から中学校までの成績、ほとんど首席同然だもんねー。
 通知表とか、テストの答案とか、見てびっくりしちゃったよー。」

秘書は鞄から、おれの小学校中学校の通知表を(何故持っている)取り出し、
見比べふむふむと言いながら、またも淡々と言った。

「フィリオネル代表は、スレイヤーズ学園の理事長なんだ。」

―――この顔で・・・?
いや。顔は別に関係ない。

「でも、彼はただの指導者なんだよ。」

紡ぎだされる言葉が核心をついているのか、いないのか。
それでも、おれの中の何かがぐらついた感覚はあった。

「お主はレゾ先生のお孫さんであっても、なんであっても、
 まだまだ多感な、これから青春を謳歌せにゃならん少年じゃ!
 学園の理事長として、一人の指導者として、
 賢くて可能性溢れるお主に、まだまだ学んでもらいたいと、
 そう思ったから来たんじゃ。」

真っ黒い髭から、真っ白い歯をぎらつかせて、
いちいち、ただの指導者であるフィリオネルの言葉に、
何かが変わってしまう予感に苛まれた。

「・・・おれは、このままでいい。」
「なーにを言うておる!!このままここにおってもつまらんぞ~?
 そりゃぁ、新しい環境は緊張するかもしれんがの。
 とにかく、お主はまだまだ青春をせにゃならんのじゃ!」
「勝手に決め付けるな。」
「知らんのかお主――!!未成年が青春を送るのは、義務なんじゃぞ!!?」

信じられないというような口調と表情で、
フィリオネルはいちいち大きな声で反応をした。

おれの冷めきった言葉に、一度も詰まることなく。

「お主はまだまだ知らない世界が、このベットの外にあることを知らない。
 わしにはそれが辛抱ならんのじゃ。
 んまぁ・・・そのことについては、わしの傲慢であることは認めよう?
 しかし、あの事件からお主がたった一人生き残ったことには、
 必ず理由があるはずなんじゃ。
 奇跡なんて言葉は信用がおけん。正義ではない。
 お主には、これから先、知らない世界を知ることが、
 生き残った理由ではないかと、わしは考える。
 そう考えたのはわしの、自由じゃ。
 だからわしの学園に入れ、って言えるのもわしの自由じゃ。
 お主がこの先、生きていくために必要なものを全てわしが用意するのも、
 わしの自由じゃ。
 さぁ。後はお主が決めると良い。」

そう一息に言うと、少しだけ優しく笑った。
この人は、おれの目の前に袋一杯のおもちゃを、
どさどさと並べ立て、あとは好きに遊べと、そう言っていることを理解した。

「・・・おれには住む家がない。」
「そんなこと心配しとったのか?我が学園には学生寮があるでな。
 料理のうまい管理人のおばちゃんが仕切っておるから安心せい。」
「・・・学園費は払えない。」
「そんなもんいらんわ!!」
「・・・しかし」
「え―――いはっきりせんのー!!入るのか入らんのか―――!!」
「だから代表声がでかい!!」


「入る。」


「・・・ん?」
「入る。あんたの学園に入ると言っている。」
「よし良く言った!!!」

正直、迫力に圧されたっていうのが一番の理由。
しかし、生き残ったのは奇跡ではなく理由がある。
その言葉は嫌いではなかった。

「学園費と制服や教科書その他授業に必要なものの支給は無料じゃ。
 じゃが、学生寮に入るための条件は飲んでもらおう。」
「・・・聞いてないぞ。」

人が入学手続きに拇印を押した後で言うか普通・・・
しかし、その書類をさっととりあげ、理事長は盗賊のように笑った。

「条件は一つじゃ!」
「・・・なんだ。」
「部活に入ること。」

肩が重くなった。

「お主はずっと剣道部や武道部とかやっておったそうじゃないか。
 我が学園には武道部はないからのぉ・・・
 柔道でよければやるか?筋肉だるましかおらんが。」
「・・・いや・・・あんたが言うかそれ・・・」
「嫌か?そうじゃろうなぁ。なら、剣道部で良いじゃないか。
 我が学園は結構強い方でのぉ。
 そういえば、今年剣道推薦で一人入学するのがおるぞ。
 成長は期待できる部活じゃ・・・」
「いやだから。」
「あん?」
「・・・おれは、人と関わりたくは・・・」
「何をいうておる!!人と関わらなくては青春が謳歌できるかバカたれ―――!!!」

今までで一番でかい声だった。
秘書も、病院の中であるにも関わらず携帯をいじり、
理事長を止めることを完全に拒否する姿勢に入っていた。

「わしがこの条件を出した意味がわかっとらんのか!!
 賢いくせに、わしの口からバカたれなんて言わすなバカたれ!!
 お主に学んでもらいたいのは、学業だけではない!!
 人との関わり方、人との信頼の築き方、人に与えるもの貰うものとは何か、
 全てはどこで学ぶのじゃ!?学校に決まっておるじゃないか!!
 クラスにいるだけでは、それらは回避しようと思えば出来てしまう!
 しかし部活という課外授業は、団体で行動することを学ぶ絶好の機会じゃ!!
 それを、学ばんで、何が、青春じゃ!!」

―――しかし、この身体でそれは叶うのだろうか?

「・・・じゃぁおれからも条件を出す。」
「なんじゃ生意気な。」
「包帯は取らない。」
「・・・ほぉ?」
「包帯は取らない。これはおれの自由だ。」
「ふむ・・・そうじゃな。」
「この格好で、おれが人との関わりを学びたいと思っていても、
 周りがそれを許すと思うか?」
「大丈夫じゃろう。問題ない。」
「・・・そうかな?」
「そうじゃ。なんじゃ、そういうことか。なら大丈夫じゃ。」
「・・・どういうことだ?」
「心配せずとも、問題はない!好きにするがよい!」

そして再び、山賊のように笑った。

「少年よ!!存分に青春を謳歌せよ!!!」



やっとフィリオネルが帰った後には、嵐がすぎたような感覚に苛まれた。
全てがぐちゃぐちゃにされたような、
それでも、少しすっきりしたような、
そんな思いで、久しぶりに病室の窓の外をみたのを覚えている―――



そして迎えた入学式で、おれはやはり変に目立った。
入学早々、全身包帯男が存在すれば、さすがに異様である。
初めのうちは、宇宙人が襲来したかのような扱いをうけたが、
1週間もしないうちにほとぼりは冷めた。
ここまでは予想済み。
変なものに関わりたくないだろう、普通の人間たちは、
もうおれの側に近寄らない、そうして一生を過ごす。

そう思って、いた。

「ゼガルディス!部活行こうぜ!!」

想像に難くない。
堂々と人の名前を間違え、快活な声で部活に誘う人間。
―――その名はガウリイ=ガブリエフ。
こいつとの出会いは、こんな感じだった。

「・・・ゼルガディス、だ。」
「え!?オレ間違えてた!?ごーめんな!?ゼルディガス!!」
「・・・ゼルガディス」
「え!?ゼディルガス!?」
「・・・もう、なんでもいい。」

フィルさんに部活に入れと命令されていたため、
しょうがないからお勧めの剣道部に入ることは、事前に交渉済み。
前日の新入部者との顔合わせで、この誰もが忘れることのできない美少年がいたことも、
もちろんおれは覚えていた。
加えて、クラスも同じで前の席。
ついでに、寮も同じで部屋は二つ空けて隣。
話したことは一度もなかったが、ここまで近くにいる存在だと、嫌でも覚える。
が、奴はそうではなかった。

「まあいいや!部活行こうぜ!ゼガルディス!」
「はぁ・・・」

初めはふざけているのかと思ったが、
後々、本人は至って真剣であることが発覚。
テストの点数と普段の行いを考えた結果、
ただのアホなのだ。この男は。

「お前さん、昨日の力試しでの太刀筋。相当な腕だなぁ!
 オレ、一度強いと思った人間は絶対忘れないんだぜ!!」
「その口か。そんなことをほざくのは。」
「オレ、お前さんみたいな強い奴と一緒に剣道できて嬉しいよ!!
 オレはガウリイ。よろしくなゼガルディス!!」
「・・・あぁ。」

だが、まっすぐなんだ。
全身包帯であるにも関わらず、好奇でも不信でもない目で、
おれの中身だけを見て、評価を感性だけで下す、そんな青空のような男。
そんなガウリイがおれの名前をきちんと覚えるのに、
・・・ざっと、2週間は要した。


そんなこんなで、おれにとっては予想外。
ガウリイという一つの人とのつながりを持って、
それを通じて部活の奴らとも、それなりの付き合いが持てていた。
そのことを何処ぞから知ったフィルさんが、
「そーらみろ!」と、わざわざクラスまで言いに来たのが、大いに癪に障ったが、
おれは一年間、平穏無事に季節を過ごした―――


おれの平和が、その一年で終わると、この時は全く想像していなかった。


迎えた二度目の春の入学式。
新入生などに興味はなく、入学式の席で隣でぐーすか寝るガウリイに習い、
おれも目を閉じた、瞬間だった。

『不良に人権はないので、これからあたしの憂さ晴らしの標的となります。
 覚悟しておいてください。』

その言葉で完全に目が覚めた。
マイク越しに物騒極まりないセリフ。恐らく新入生代表の演説・・・
だがそんなまさか・・・!!
そんなこと平然と言った者とは、
栗色の髪をした、意志の強さをその紅い瞳と全身に宿した、小さな少女。

後に、リナ=インバースであることを知った。

絶対、絶対絶対に関わりたくない、と。
心に決めていた女(リナ)が、
おれの唯一心を許せる男(ガウリイ)に言い寄られている(ように見えた)
のを見た時は、さすがに驚愕した。

「なんか、ほっとけないだろ?リナって。」

どうやら、このリナ=インバース。
普通にしていれば成績優秀の運動神経抜群。
入学早々、様々な運動部の助っ人としてふらふら活動していたところ、
たまたま廃部寸前の女子剣道部に来た際に、ガウリイと知り合い、
終いにゃ一発で意気投合しやがった、というわけである。

このクラゲ・・・おれの名前覚えるのは2週間もかかったくせに・・・
危険な女の名前は一瞬で覚えるとかどの面さげて・・・

その危険な女がおれの平穏な生活に土足で踏み込むのに、
さして時間はかからなかった。

「ゼル―――!!早くしないと、購買のトリプルハンバーグパン売り切れるわよ!!」
「オレ先に行くぞ―――!!」
「あ!!ちょっとガウリイ待ちなさい!!あれだけは譲らないわよ!!」

不良キラー女と、クラゲ頭の美少年と、全身包帯男。
悪目立ち再び―――

お陰で教師に目をつけられるはめになるわ、
不良いびりしているリナを、止めに行くガウリイに付き合わされるはめになるわ、
終いにゃ一緒に不良いびってるわ、
昼休みには猛獣(リナとガウリイ)の世話をせにゃならんわ・・・

散々だった。
散々だった、が。
――――正直な話、退屈は全くしなかった。

そんなことが普通の日常となってしまったある日。
本当に何もない、とある昼休みだった。

それが、あいつとの―――

「ん・・・電話・・・」
「リナお前さん、電話する相手なんかいたのか?」
「うっさいわよクラゲ。」

昼休みの屋上。
立ち入り禁止であるはずのそこは、おれが解錠したことにより、
おれたちの溜まり場となっていた。
3人でぐーたらしていたところ、リナの携帯に一本の電話。

「もしもしー?どしたの?・・・え?次の時間自習!?
 ラッキー!ずっとここにいよーっと!え!?・・・屋上ー!エヘヘー!
 そうだ、あんたも来なさいよ!高いとこ好きでしょ?
 いーい?3分以内ねー!んじゃ!」
「・・・おい」
「相手の子、不憫すぎじゃねーか・・?」
「大丈夫よ。あたしら、仲良しだものv」
「「うっさんくさ・・・」」
「だまらっしゃい!!」

きっかり3分後に、息を切らして現れたのは―――

「はぁ・・はぁ・・・リナアァ・・・?」
「よっ!アメリア!」

黒髪碧眼の、小柄な少女だった。

「よーぉ。やっぱアメリアだったか。不憫な電話の相手はー。」
「ガウリイ。知っているのか?」
「あれ?ゼルは知らなかったの?リナのクラスの友達で、
 よく一緒に不良いびりしとるんだと。」
「・・・リナと同じのがもう一体いるのか・・・?」

とてもそうは見えなかった。というのが第一印象だった。
しかし彼女がいうに、その行為は「不良いびり」などではなく、
「正義執行」らしい・・・。
あー・・・どーしてこう、変なのばっかり集まるんだ・・・

そんな彼女だが、肩までの黒い髪はさらさらと風になびき、
息はまだきれているが、リナと話すときの表情は柔らかく、
なんだか、初めて会うのに、以前から知っているような、温かい印象をうけた。
その温かなものが、ふいにこちらを向いた。

「あら?ガウリイさんと・・・この方は?」
「あれ、アメリア知らないの?全身包帯男こと、ゼルガディス=グレイワーズよ。」
「おい。」
「あー!ゼルガディスさんって、あのゼルガディスさんですか!!
 全身包帯さんがゼルガディスさんだって知りませんでした!!
 もっと陰険な感じだと思ったんですけど、そうでもありませんね。」
「おい。」

さすがリナのお友達。

「うちの父が、ご迷惑おかけしましたー!」
「・・・・・・・・は?」



父、って?




「私、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンと申します!
 父さんが、ゼルガディスって人に随分ご迷惑かけたって秘書の人が・・・
 いつかごめんなさいって、言いたかったんですけど、今日会えてよか・・・」
「待て!!!あんた・・・」


セイルーンって。



「アメリア。フィルさんの娘なのよ。」



頭が真っ白になった。
リナの決定的なセリフは、おれが1年間とちょっとこの学校にいる間の、
最上級の驚愕だった。
仕方ないだろ!!?あの盗賊かドワーフか、
とにかく、圧倒的にむっさ苦しい風貌を振りかざしたフィルさんから、
こんなかわい・・・
――――いや、なんでもない。

「よろしくお願いします。ゼルガディスさん。」

恩人の娘さんは、そう言ってほほ笑んだ。


その日から、4人組で過ごすのが主となった。
昼休みは必ず合流し、リナとガウリイの食事戦争を毎日見学し、
剣道部の試合に出たり、応援部のアメリアの声が聞こえたり、
相変わらず不良いびりに付き合ったり、
食べ放題の店を数十件回ったり、遊園地へ行ったり、
自然と、おれの横にアメリアがいたり―――

確実に、おれは青春を謳歌していた。

心を許せると、言えるような人間がここに3人もいる。
しかしそれでも、いや、だからこそ、
おれはこの包帯を取るまいと、心に誓った。
―――このつながりを、壊すことが恐ろしかった。
包帯一つ隔てた所には、それを壊す不安要素が十分に存在していたから。
この肌を見たら、さすがにこいつらでも・・・

だから、絶対に・・・
特に、あいつには、絶対に―――





「ゼル・・・暑苦しいのよ。」

栗色の破壊神が、理不尽なジャッジを下したのは、
今年一番初めの真夏日の放課後―――
期末テストが終わり、あと数日で夏休みを迎える、平穏な日
の、はずだった―――

「そーいやーさ。ゼル包帯巻いててあっつくないのかぁ?」
「・・・問題ない。」
「問題おーありよ!!!見てて暑苦しい!!!」
「ゼルガディスさん、蒸れませんか?」

今回はいつものように好き勝手言わせておくわけにはいかない。
この話題から、さっさと回避しなければ・・・
だが、おれにはそんな会話技術などなかった。

「それ、取んなさい。」
「いやだ。」
「なんでよ!!もうとっくに治ってるんでしょ!!?」
「え!?そうなのか!??オレ、まだ痛いのかと思ってた!!」
「そういえば、包帯してることとか・・・忘れてましたねぇ。」
「そうだ。忘れろ。」
「何いってんのよ!!一度気になったら、はいそーですかー、って、
 気にせずにいられるもんですか!どっかのクラゲじゃないのよ!!」
「どこのクラゲだ?」
「とにかく!!!ガウリイ。ゼルを抑え込みなさい。」
「はいよー!」
「おおいいいい!!!!」

怒涛の勢いで、いよいよやばいことになった。
後ろから押さえ付けるガウリイの力に、
正直勝ったことなんて一度もない。

「止めろ止めろ!!!それだけは止めろ!!!」
「いーじゃない!傷塞がってるくせに、あたしを欺こうってのがおこがましいのよ。」
「おれのプライバシーに土足で踏み込みお前のが、おこがましいわ!!」
「えーい文句言わない!!正直、包帯の下、結構興味あったのよね♪」
「そのたかがお前の好奇心だけでおれの全人生を台無しにするつもりか!!?」
「オーバーだぞーゼル―。」
「ガウリイ!!お前何リナのいいなりに・・・」
「うーん。正直、オレも興味あるから。」
「~~~!!!」
「ほらほらー♪あたしらとゼルちゃんの仲じゃない♪」
「それでも駄目なものは駄目だ!!アメリア!!!お前からも何か言って・・・」

あぁ・・・おれの天使が・・・笑顔で手を振っている・・・
一貫の、終わりだ―――――


リナの魔の手が、伸びてくる――――




肌が外気に触れる感覚に鳥肌が立つ。
風呂に入るときだけに、
一日に一度だけ解放される、化け物姿のおれ―――

そんな化け物が、今、最も見られたくない相手の前で、
その姿を曝そうとしている。




―――もう、何も失いたくないのに





「・・・ゼル・・・あんた。」

包帯が肌を滑り降りる感触を最後に、
おれの身体を支える筋肉はダラリとその役目を放棄し、
血の気は、全てどこかへ逃げ去っていた。

恐らく、あいつらの目から見るおれの姿は、
青白く染まった、絶望の表情をその顔面に張り付けた化け物だろう。

その場に膝をついたおれが一瞬見たものは、
珍しく驚愕の表情をしている、リナとガウリイと、
その大きな眼を更に大きく見開き、口元に両手をあてている、アメリアの姿・・・
―――あぁ、こいつらにだけは、見られたくなかった

「ゼルガ、ディス・・さん・・・」

もう完全に涙声。
いつも笑っていて欲しいと、願っている少女は今、
おれのせいで声を震わせている。
もう、ここにいるわけには、いかない―――
そう思い、重たい足を奮い立たせ、走り逃げようと・・・



「ブラッ○・ジャッ○ですね・・・!!!!??」




「・・・・・・・・・・・・・は?」



追いつかない思考を整える前に、顔はアメリアへ向いていた。
先ほどまで涙声であったアメリアの表情は、
まるで大好きな正義のヒーローでも見るかのような、
いわゆる「カンドーに打ちひしがれている」顔をしていた。
あ。だから、涙声だったの?

「・・・あたし、あの話は完全なフィクションだと思ってたわよ・・・」
「すげー・・・ゼル。お前さん、お医者の先生だったんだな・・・」
「いや、ゼルは医者じゃないけど。
 すっごー・・・皮膚移植って結構ちゃんと肌なのねー。」
「素晴らしい・・・素晴らしいですよゼルガディスさん!!
 隠していた素顔はまさに、弱気を助けるヒーローのまさにそれだったんですね!!?
 あぁ・・・愛と勇気のため、あえて正体は明かさず正義を成す・・・
 ずるいです!!!私たちには正体明かしてくれてもよかったのに!!」
「アメリア。何か違くないか?」
「ガウリイさん。正体を明かさず正義をなすことこそ、
 これヒーローのお約束、って相場は決まってるんですよ!?」
「だったら、あたしらに正体明かしちゃったら駄目だったんじゃないの・・・?」
「何を言ってるのリナ!!私たちは正義の仲良し4人組なんですよ!?
 その愛すべき仲間達にくらい正体を明かしても、
 それは正義の行いだから、万事OKなのよ!!」
「てゆーか。もともとゼルは正義のために包帯つけてたわけじゃ・・・」
「え!!?じゃぁ、ゼルガディスさんって・・・悪!!?」
「まーてまてまて根本から話が違うよ――!」

そしておれも全く現状についていけない。
・・・おかしいだろ。さすがに、おかしいだろ。

なんでこいつら、平気な顔してんだよ―――


「それにしても、結構普通だったわね。
 もっとグロテスクなのがうごうごしたりしてるのかって・・・」
「リナ、お前さんそーゆーの苦手なくせによく言うぜ。」
「でも、私ももっと世紀の不思議人間、みたいな顔してるのかなって、思ってました。」
「・・・・・・」
「意外と、普通なのね。」
「普通だったな。」
「そーですね。」

おれの中で今世紀最大の心の闇が、
たった3人の学生によって、蹴散らかされた―――

「ゼル?何いつまでも固まってんのよ。」
「お前さん。これからはそれでいろよ。包帯の格好より全然いいぞ?」
「そうですよゼルガディスさん!
 素敵ですよ?包帯で隠していたら勿体ないです!」
「・・・・・本当に・・・」
「「「ん?」」」
「本当に・・・・お前ら・・・おれが気味悪く、ないのか?」
「「「・・・別に?」」」




晴れた。
今度こそ。
雲ひとつない、真っ青なそれが、
どこまでも、どこまでも続くようだった―――




「さーて、涼しくなったところで、アイスでも食べに行くわよー!」
「お!いいな!おれトリプルにしよっかなー?」
「ガウリイさん一口下さいねー!」

この時食べた粒あん入り抹茶アイスが、
今まで生きてきた中で何よりうまくて、
今でもおれの一番の好物であることは、おれだけの秘密である。



次の日からは、まるで景色が変わった。
1年間包帯男だった奴が、何の前触れもなく素顔を大公開。
夏休みに入るまでの一週間、学内新聞に載るほど、それは一大ニュースと化した。

それどころか、以前よりも話せる相手が増えたり、
クラスの連中によく勉強の教えを乞われたり、
何故だか女どもの視線が突き刺さったり、
剣道部での立場も、ぐんと心地の良いものになったり、

本当の意味でおれは、人との関わり方を学ぶことになった―――
おれが変わらなきゃ、周りも変わらないこと。
おれから心を開かなきゃ、周りも心を開かないこと。

いつでも鍵は、自分で持っていたこと。

気付かせてくれたのは、
陽だまりのように笑う、3つの道しるべだった―――





「グレイワーズくーん?」
「おばちゃん?どうした?」
「グレイワーズ君に電話。」
「・・・はぁ。」
「今日のお昼はグレイワーズ君の好きな和食だから、
 電話終わったら早めに来なさいね?ガウリイちゃんに全部食べられちゃうから。」
「そーだぞゼルー!!オレが食っちまうぞー!」
「あぁ。わかった。」


「・・・もしもし?」
『おー!!ゼルガディス殿!元気そうじゃないか!!』
「・・・フィルさん・・・」
『久しぶりじゃのぉ!!寮の暮らしは、どうじゃ?』
「フィルさんお墨付きの、おばちゃんの料理は格別だ。
 食べ盛りの胃袋に、これ以上のものはない。」
『はっはっはそうじゃろ―!!飯はうまくなくちゃならんからの!!
 ところで部活の方はどうじゃ!?』
「相変わらずだ。」
『今度の地区大会は期待しておるぞ!心配はしておらんが、
 隣町の学校にやたら強いのがおると小耳に挟んでの!』
「・・・ルークのことか。」
『じゃが我が学園にはお主もおるし、ガウリイ殿もおる!
 良い知らせを期待しておるからの!!』
「それでわざわざ理事長殿直々にお電話か?
 理事長ってのは、案外暇なんだなぁ。」
『相変わらず可愛くないのぉ!!はっはっは結構結構!!
 それで、ゼルガディス殿よ。』
「ん?」

『青春、謳歌しておるか?』


―――――・・・・


「心配せずとも。」


もう、おれは大丈夫だ。
これからも、この奇跡の理由を、探して生きてやる。



 



『ところでお主ぃ。青春しちょるってことは、
 まさか恋でもしてるのかぁ?』
「なっ・・・!!?」
『おっ。その反応じゃと、おるんじゃな?お主ぃ。隅にはおけんのぉ!!』
「いや・・・別に、おれは・・!!」
『まぁ何か相談したいことがあったら、いつでも連絡するんじゃぞ!
 わしのことは、第2の父とでも思っていていいからのぉ!』
「なっ・・・!!!・・・いいのか?」
『照れずとも!!お父さんと呼んじゃってもいーぞー!?はっはっは!!』
「お義父さん・・・か」
『なんかニュアンス変じゃないかのぉ・・・?』
「気のせいだ。昼飯ガウリイに食われるから切るぞ。じゃ。」

ブツリ


「・・・なーにやってんだおれ。」

顔が熱くなるのが、
嫌でもわかる。

「ってゆーか、恩人の娘に惚れるって・・・」

おれって恩知らず・・・?


しかし、青春を謳歌しろといったのは向こうだ。
存分に謳歌してやろうじゃないか。
そう思ったら、昼飯を食った後にあいつを誘う気力が湧いてきた。


さぁて。どこへ行こう―――?


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