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なまこのスレイヤーズ・ゼルアメ中心のブログです。 各種版権元とは一切関係がございません。
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クリスマス用にー!って、
数ヶ月前からちっまちっま妄想を押し込めていましたwww
卒研一段落したので、
妄想を一気に押し込み押し込み押し込み切りました。
お時間ございましたら、暇つぶしにどうぞです。
つづきから小話です。

しかも学園パロです。
今回は今の時間軸からちょっと未来編。3年後編。
なので上記のアメリアも、心なし髪長めです。

――――――――――――――――――――――――

そして、クリスマス企画ご参加の皆さま、
本当に本当にありがとうございました―――!!!
どうにか寂しいクリスマスを過ごさずにすみました;;;
現在妄想しながらマウスと格闘中ですv
この感謝の気持ちは、リクエストに代えさせていただきます・・・!!!
頑張ります・・・!!!ムフー








―――――――――――――――――――――――――――――――

 


冬の空気はあの人によく似ている。

 

ツンとしていて、
ぶっきらぼうに風を吹かせて、
一日中ずっと銀色で、
でも、時々ふっと暖かくなる。

そんなあの人がいない冬を、
3度見送ろうとしている――――

 

 


【Give a word】

 

 


大学に入学して、2度目の冬がやってきました。

それでも、スレイヤーズ学園にいたころと、
わたしの周りはほとんど変化していません。

リナとは別の大学に通っているけど、
ほぼ毎日メールや電話でお話しているし、
ガウリイさんも交えて、月に2~3回はわたしの家で食事会をします。
リナとガウリイさんも違う大学に通っているけど、
ガウリイさんは、毎日リナをバイクで大学まで届けてるし、
まだ正式に付き合っていないらしいけど、
普通のカップルより、よっぽどラブラブだと思います。

シルフィールさんは看護学校に通っていて、毎日忙しそうだし、
フィリアさんも美大で何やら壺作りに没頭しているようだけど、
リナの「女子会やるわよ!」の一言で、
何故か一度も断らずに毎回全員集合してます。

ヴァルガーブさんは、学園を卒業と同時に働きだし、
ゼロスさんは・・・あれ?
そういえば何してるんでしょうか・・・?

そんなこんなで、皆元気そうですし、
その元気そうな姿も、あまりご無沙汰せずに見ることが出来ます。

 

彼以外――――

 

 

ゼルガディスさんだけは、
卒業して、海外の大学へ一人赴きました。

肌の手術をするためと、
興味のある分野の勉強を深めるため。
進路のことをはじめて聞いた時は驚きましたけど、
ただ単に、すごいなぁ、とか、頑張ってほしいなぁとか、
そんなことだけを漠然と考えていた気がします。

出立の日、全員で見送りに行って、
まるで3日間くらい旅行してくるような雰囲気でわかれて、
その日もメールをしたので、
本当に、本当に実感が無かったのです。


その時は、まさかこんなに、
こんな気持ちになるとは思いもせずに。


はじめは、向こうの生活に慣れることに集中してもらおうと、
連絡を控えていたのですが、
いざ、メールをして、その返事が返ってきたのが、
1か月後でした。
しかも、わたしが3日3晩考えた文章に、返ってきたのが3行。
その、たった3行だけで伝わる、
彼の疲労感と忙しさ―――
その日から、連絡を取るに取れない日々が、
なんと3年目に突入してしまいました。

最後に連絡したのが、確か夏休みがはじまる前で、
返事が返ってきたのは夏休みが終わる頃。
当たり障りのない、皆さんの近況と、ちょこっと応援文。
それに返ってきた文の内容は、
向こうは雨が降っていることと、学んでることのウンチクと、
お前も達者でな、ということだけ。


彼自身のことは何にもわからなくて、
同時にわたし自身のことも伝えられない。


彼からの言葉が来るたびに、
まだ繋がっていられる儚い喜びに打ちひしがれ、
同時にどうしようもない悲しさに打ちひしがれる。

わたしは、どんなに日常生活で悲しいことや辛いことがあっても、
以前より胸が痛くなったり、涙を出すことが無くなりました。
だけど、彼からの言葉が来るたびに、
どうしようもなく胸が痛み、
耐えきれなくて一晩中涙を流すようになりました。


そう、わたしは彼に、未だに気持ちを伝えていないのです。

 

 

「アメリア―!今晩空いてる~?」
「どうしたんですか?」
「合コンのメンツ一人足りなくてさー!今日こそはって思って!!」
「だから・・・そういうのはちょっと・・・」

大学に入って新しい友達がたくさん増えました。
そういった友達から、毎週のようにくる合コンへの誘い。
一度根負けして行ってみたのですが、
その印象の悪さに、もう懲り懲りです。

「だーから!今回はイイ男ばっかりらしいからさー!
 アメリアも今回はちゃんと楽しめると思うよ~?」
「ですから、本当に、そういうのはもう懲りちゃったんですってば。」
「おーいこらー?もう冬の大イベントは間近だぞ~?
 良い物件が売れちゃう前に、
 狩りにいかなくてどうする魅惑の果実よ!」
「アメリア、海外に彼氏いるんでしょ?」
「いいいいいいいえええええ!!!そんな滅相もない!!!!」
「なんだなんだその動揺の仕方は!?
 もしや数年越しの恋に変動が訪れたか!?んんん??」
「いいえええだから・・・!!違うんですぅ・・・。」

大学の友達も、リナ達と同じくわたしを大事にしてくれます。
勉強の話も、日常の話も、恋の話も、たくさんしました。
現在海外にいる彼に片想い中、であるわたしに対し、
彼女らはその恋を応援するより、新たな出会いを勧めるのです。
どうやら、彼の話をするときのわたしの顔が、
見ていられないんだそうです。
だから、心配して色々話を持ってきてくれるのは嬉しいのですが、
どうにも、ダメなのです。

「アメリア、あんたモテんだから、今遊べるうちに遊んどきなよー?」
「片想い中なのは大変よろしいんだけど、たまーには息抜きもしないと!」
「彼からの連絡、来るといいね。」

いつもそう言って励ましてくれる。
本当に、ありがたいんです。
ありがたいん、です。

そしてまた彼を思い出すと、鼻の奥がツンとするのです。

 


先ほどまで話していた友達は、
わたしの取っていない講義に行くため一旦別れ、
わたしは食堂で暇をつぶそうとしたところ、影一つ。

「ここ、いいかしら?」
「あ。ミリーナさん!お久しぶりですー!!」

ミリーナさんは、違う学園の剣道部で、
リナ達の剣道部の大会に応援しに行った時、初めて会いました。

女子の白い道着が似合いすぎて、
防具をつけるその真剣な眼に、
吸い込まれそうになったのを覚えています。
リナを通じて、大会でしか会えなかったのですが、
大学で会った時は本当にびっくりしました。
それをきっかけに、会った時は、たまにこうして話をしてくれるんです。
人を寄せ付けないような人かと思えば、
心を許した人には、とても面倒見の良い、
とっても素敵な女性なんです。

「ミリーナさん、今からお昼御飯ですか?」
「えぇ。ちょっと教授と話こんでしまって。」

そう言いながら、ごっつい豚骨ラーメンをすすっていても、
英国でパスタを食べていそうな雰囲気を出すミリーナさん。
びっくりするほどの美人さんです・・・。
さっきから3~4人の男の人が振り返ってまで見られているの、
ご存じなんでしょうか・・・?

「・・・豚骨ラーメン、お好きなんですか?」
「基本、食べられればなんでもいいわ。」
「食べること、お好きですか?」
「人間の欲求だから、嫌いではないわ。」
「よかったー!リナみたいに食欲大魔神仲間だったら、
 どうしようかと思いましたよー!」
「・・・あの娘と、一緒は嫌ね。」

楽しいミリーナさんとの会話をしていると、
遠くからいつもの明るい色の低音が響いてきました。

「ミリイイイイイイイナアアァァァァァ!!!!」
「ルーク。黙りなさい。」

ミリーナさんの匂いをかぎ分け、現れたるは、
やっぱりこの人。ルークさん。

ルークさんとの出会いもミリーナさんと同じで。
初めの頃は部外者扱いされてましたけど、
今では色々話をしてくれたり、聞いてくれたりと、
完全に心を許してくれるようになりました。
ガウリイさんとは、また傾向の違う、お兄さんのような存在です。

「ふう・・・
 どこぞの馬の骨がミリーナの隣にずうずうしく鎮座する前に、
 俺のテリトリーキープだぜっ・・・。
 おう、アメリアー!ミリーナ確保しといてくれて、サンキューなっ!」
「・・・そんなことしてないんですけど;」
「ほっときなさい。話すだけ無駄よ。」
「嗚呼愛しのミリーナ・・・。
 あんな禿げ親父と熱心に話しこむ時間の余裕があるんなら、
 俺とお前との愛について、本気出して語り合おうじゃん?」
「無駄な時間ね。」
「ミリイナアァー!!」

毎度毎度、めげずにラブラブ光線を送るルークさんに、
それを撥ね退けながらも一緒にいるミリーナさん。
このやり取りをしているおかげで、
余程根性と精神力のある男の人じゃないと話しかけてこない、
と、以前ミリーナさんがおっしゃってました。
ルークといるのはそのため、とか言ってましたけど、
満更でもないことを、わたしは良くわかっていますよ。
いつもなら微笑ましく眺める光景なのに。

―――しまった、今はちょっと、辛い。

ゼルガディスさんを想った胸の痛みが修復しきれてないから、
ルークさんにこんなに想われているミリーナさんを、
ミリーナさんをこんなにも想っているルークさんを、

見ることが出来ない。


「おい、アメリア?大丈夫か?」

意外にも、わたしの異変に気付いたのはルークさんの方でした。

「・・・え?なんでですか?」
「とぼけてんじゃねぇよ。なんだその顔。見たことねーぞ。」
「・・・やだ、そんな酷い顔してました?」
「あぁ。酷いぞ、お前。
 俺はそんなお前の顔なんか見たくねーから、早くなおせ。」
「あの・・・ルークさん。」
「もしや、どっかいてーのか?医務室行くか?」
「ルークさん・・・。」
「ルーク。話、聞いてあげましょ。」

矢継ぎ早に飛び出すルークさんの声が、
ミリーナさんの声一つで、ピタリと止まりました。


「ゼルガディスかー。
 あんにゃろーもめんどくせー奴だよな。」

話を聞いてもらったら、大分楽になった気がします。
リナにでも、ガウリイさんにでもない、
あまりにも近すぎる人には、話していないことも、
気付いたら話してました。
お二人とも、ゼルガディスさんのことはご存知ですし、
わたしの気持ちも・・・どうやら既にご存じだったそうです。

「だっておめー、わかりやすかったもんなー。」
「・・・ルークさんにだけは言われたくありません。」
「俺は気持ち隠してねーもーん!」
「わたしだって・・・隠したいわけじゃありません。
 出来るなら、伝えたかったんですけど・・・でも。」
「まぁ、関係が近すぎたりすると、タイミングわかんねーよな。」
「・・・」
「・・・なんだよその顔。」
「いえ・・・ルークさんらしかぬことをおっしゃるので・・・。」
「んだよー。俺だってお前と対してかわんねーよ。」

それは、恋をしている点では、ということでしょーか?
先ほどより顔が赤くなっているところから、
恐らくそうなんだろうな、と思うと、
なんだかルークさんが可愛らしく思えてきました。
悪人みたいな顔してるのに、本当に真っ直ぐな人。

「あいつとさ、俺、何度も手合わせしたけどよ。」
「あいつって・・・ゼルガディスさん?」
「あぁ。あいつは、ガウリイ主将と違って、すんげぇ頭良いからよ。
 戦う時も、あいつはいっつでも色々考えてた。」
「・・・あの人らしいですね。」
「だから、俺、あいつに頭使われて負けることも多かったけど、
 逆に、あいつが頭使ったおかげで勝つこともあった。」
「え?」
「あいつ、頭使い過ぎるんだよ。そーなると必ず俺が勝つ。
 あいつの弱点は、考え過ぎて空回りすること。
 それは、多分あいつもよくわかってると思うけど、
 どーも身体に染みついたもんらしいからな。直すのは難しい。」

確かゼルガディスさん、
ルークさんとの実力差は五分くらいって言ってたよーな。

「・・・何で今そんな話するんだ?って顔してんな。」
「・・・はい。」
「多分あいつ、お前にもそうなんだと思う。」

あー、お前もかー、と大きな呟きを吐き、
ルークさんはわたしの頭をぐしゃぐしゃになでまわしながら、

「あいつ、多分今、考え過ぎて空回ってんだよ。そんでお前も。
 考えなくていいんだよ。無理しなくていいんだよ。
 会いたいなら会いたいって言えよ。
 どっちかが言わないと、ずっと今のまんまだぞ?」
「・・・でも、ご迷惑じゃ・・・。」
「なーに言ってんだよ?ずーっと一緒にいた、
 少なくとも今でもまだ友達なんだろ?
 あいつは友達の誘いでも、ご迷惑だなーんて言うのか?」

ゼルガディスさんは今まで、
わたし達との遊びの誘いを、
断ったことなんてありません・・・。

「な?案外、そろそろ耐えきれなくなって、
 あいつの方から何か言ってくるんじゃねーのー?」
「・・・そうでしょうか?」
「愛の言葉はなー、こー、いっつでも主張するべきなんだぞ!?」
「ルークさんはやりすぎなんじゃないですか~?」
「おめーなー!俺の言うこと信じろよな!?
 くぬやろくぬやろ~~!!!」
「いやーん!!止めて下さいい――!!」

憎まれ口を吐き、わたしの頭を更にぐしゃぐしゃにしながら、
ルークさんは、わたしをどうにか笑わそうとしてくれる。
ミリーナさんは、優しく話を聞いているだけ。
もし、ルークさんが変なこと言ったら、
ストッパーになってくれるため、
ずっと真剣にただ話を聞いていてくれる。

 

2人とも、本当にお優しい。
ちょっとだけ、
涙が出そうになるのを抑えるのに必死になりました。

 


大分じゃれあっていたら、わたしのポーチの中の携帯電話が、
滅多に聞かないお気に入りの、正義の歌を歌い出しました。
あれ・・・?この着信音って・・・。

「ゼルガ・・・ディスさん・・・?」
「えっ!?マジッ!!?」

わたしの後ろから肩をつかんで、
携帯をのぞいてくるルークさんの目からも、
液晶画面にそのメールの着信の主が、彼であることがみえているでしょう。
緊張のため、無意識にメールをひらく。
わたしの意思と機械の速度が追いつかないのが、もどかしい。
そして、液晶にうつる、数か月ぶりの彼の言の葉。


『月末ちょい前に、そっちに行く。』


「これって・・・」
「あいつ・・・帰ってくるんじゃん!!!」

ルークさんが解釈してくれなきゃ、
多分自分では自信をもって認めることが出来なかったと思います。
そっちに行く・・・すなわち、帰ってくる・・・


―――あの人に、会える。


現実と、わたしの感情が追いつかない。
嬉しくて、信じられなくて。
やがて、どんどん、ただ嬉しくて。
どんな顔をしてたのかわからないんですけど、
ドキドキしたまま、真後ろのルークさんの方へ振り向くと、

「ほーら、俺様の言ったとーり。」

二カっと笑いながら、得意そうにそう言いました。

 

どうやら、ゼルガディスさんが月末に帰る一大ニュースは、
わたしに一番に知らされたトピックスだったらしく、
その日にちょうど食事の約束をしてたため会えたリナとガウリイさんに、
その話題は大変驚くものだったようです。
―――その事実が、また嬉しくて。
味噌バター海鮮鍋を突っつきながら、
どう出迎えてやろうか、とか、それにどんな顔をするか、とかを話しながら、
すごく、すごく笑いました。
こんなに胸がきゅんといっぱいになった食事は、
正直久しぶりでした。


ゼルガディスさんの帰ってくる日は、12月23日。
その日から年末、三箇日までこっちに滞在するとのことです。

つまり―――クリスマスを一緒に過ごせる。

どうしましょう・・・何をしましょう。
恐らく、わたしの家でパーティーをするから、リナとガウリイさんと。
ゼルガディスさんのお帰りなさいパーティーを兼ねて、
あの人の好きなものばかり揃えよう。
盛大に迎えてあげよう。
あなたが帰ってきて、すごく嬉しいってことを伝えよう。
パーティーの途中、絶対リナとガウリイさんは食事に夢中になるから、
もし、もし二人っきりになれたら・・・
そうだ、プレゼント。
その時にプレゼントを用意しなくっちゃ・・・。
彼が喜びそうなもの・・・
銀時計?万年筆?ブックマーカーとか・・・?


喜んでほしい。
彼の笑顔が見たい。
彼の声が聞きたい。

―――ゼルガディスさんの、側にいたい。

 

彼に会えるその日を迎えるため、
なんともまぁ、自分でも恥ずかしいくらい、
心ときめかせた薔薇色の日々を過ごしたのでした。

シルフィールさんとフィリアさんに話したら、
本当に嬉しそうに一緒に喜んでくれて、
リナも交えて、女子会をするがてら、
ゼルガディスさんへのクリスマスプレゼントを買うのに付き合ってくれました。
1日じゃ決められなかったので、なんと5日もかけて・・・。
皆さんには、大分ご迷惑をかけちゃったんですけど、
フィリアさんは、「ヴァルへのクリスマスプレゼント買うのも兼ねてますし。」とか、
シルフィールさんやリナも、「楽しいから。」と言って、
実際本当に楽しく色んなお店行って、
女の子だけの、楽しい買い物をすることができました。

それに、久しぶりに通学中の電車でゼロスさんに会いました。
一体今何をしているのか聞きそびれたのですが、
ゼルガディスさんが帰ってくることを言ったら、
「ふぅん。それは、良かったですねぇ。」
って、言ってくれました。ですが、だんだん顔が引きつってきて、
「もう・・・その幸せそうな顔と雰囲気、止めてくれませんか?」
って、言われてしまいました。
人の幸せが苦手なゼロスさんにそう言われてしまっては、
自分が本当に幸せそうに話していたんだなーと、
失礼な話ですが、実感してしまいました。えへ。

そして、ルークさんとミリーナさん。
お二人も、ゼルガディスさんお帰りなさい会にお呼びしたのですが、
「クリスマスに皆でワイワイさせるとか、野暮なことすんじゃねー!」と、
また頭をぐしゃぐしゃにされました。
・・・確かに。
ルークさんは、ミリーナさんと二人っきりで過ごすため、
さぞや日夜努力に励むんだろうなー・・・と、
ちょっぴりまた羨ましく思いました。
いいいいけませんいけません!!!
一日中二人っきりなんて・・・考えただけでもう・・・
大爆発しそうなのに。
出来もしない理想の境地に嫉妬するなんて、
お角違いも甚だしいです。

 

「じゃぁ、バッチリ準備しなきゃじゃないのあんた!」

そして、大学の友人にも、
ゼルガディスさん一時帰国の吉報を伝えたら・・・
その日の夜、強制的に飲み屋に連行されました。

「クリスマスプレゼントは準備しましたよー!」
「その準備じゃないでしょーっ!?」
「会場準備のことですか?それも、毎年使ってるものを・・・」
「その準備でも、ないっ!!」

バァーン!!と、わたし以外の3人が、
持っていたグラスを一気に飲んで、机に叩きつけました。
・・・3人とも、わたしよりお酒弱いのに。

「あんたの、準備でしょ?」
「え?」

さっきの大声から一転して、
顔をぐぐぐっと近づけて、小声でおっしゃったため、
最初は本当に何を言ってるかわかりませんでした。

「わたしの、準備ですか?」
「そぉーよっ!」
「久しぶりに会うんでしょう?
 ちょっとでも可愛く見てもらいでしょっ!?」
「はっ・・・!!!」
「今気付いたかこの娘はー・・・。」
「ななな何をすればいいでしょうかっ!!??」
「とりあえず、今度服買いに行くのと・・・。」
「「「ランジェリーショップ」」」
「ごぶはっ!!!!」

カルーアミルクが、もろに鼻に入りました。
痛い。

「なっ・・・ななななっ!!?」
「久しぶりに会った可愛い可愛いいじらしい女の子が、
 しかも自分のこと好きだったらねー、ヤるこた1つよ!」
「そ・・そんなことにはならないと思うん・・・」
「甘――――――――いっ!!!」
「ひょええええっ!!!」
「その人がどんな人かわかんないけど、
 世間一般では、クリスマスというお誂え向きの行事で、
 年頃の可愛い女の子と二人の夜を過ごせば、
 年頃の若い雄は据え膳を食うのよ!!」
「いやまだ二人っきりになれるとは・・・」
「だから、準備しとけって言ってんの!!
 いざそーゆーことになって、実は上下バラバラの下着でしたーとか、
 萎えるわよ向こうが!!」
「~~~~~~っっっ!!!??」
「だから、可愛い格好したら、中身も可愛くしなきゃ!
 あんた胸でかいんだから、下着もそろえたら・・・やばいわよ。」
「いやーん!!アメリア大人ーっ!!」
「えぇーん!!純情アメリアの純潔が取られる――!!」
「だっ!!だだだ誰がそうさせようとしてるんですかっ!!!
 大体、わたしは彼とはそういう仲ですら・・・」
「そんな悠長なこと言っていいの?」

彼女の一言で、周りが騒がしいのに気付きました。
さっきまで、矢継ぎ早に繰り出されていたわたしたちの会話が、
今のその格好のまま、ピタリと止まったから。

「滅多に会えないでしょ?」
「・・・はい。」
「会えなくて、苦しかったんでしょ?」
「・・・はい。」
「次、いつ会えるかわかんないんでしょ?」
「・・・・・・はい。」
「ならさ、頑張んなよ。」

そうだ。彼女の言う通り。
わたしは、ゼルガディスさんが好き。
自分の気持ちはきちんと自覚してるけど、
進歩したのはそこだけ。見た目には、全然変わっていない。
友達のまま。
今のままだったら、また彼が帰ってしまったら、
また同じようにいつ連絡が来るかわからない日々に逆戻り。
―――それは、嫌・・・

――会いたいなら会いたいって言えよ。
どっちかが言わないと、ずっと今のまんまだぞ?

今ふと、ルークさんの言葉が脳裏に響いてきました。
今度こそ、今度こそ、
ちゃんと言おう。
―――私の想いを、あの人に。

 

「とにかく!今度ショッピング行こう!!」
「―――っはい!!!」
「今よりず―――っと超かわいいアメリアにしてあげるっ!!」
「ああありがとうございます~~!!」
「後、ランジェリーショップ行って、
 めっちゃくっちゃえっちぃ下着も買うぞっ!!」
「ぶはっ!!!」
「オトナの知識もおしえちゃるっ!!逃げるなよ~~!!」
「ひいいいいいいいいいいいえぇぇぇ!!!!」

 

 

来る今日は―――23日。午後、6時。
ゼルガディスさんの、帰国予定時刻まで、あと数分。

「アメリア~?」
「もう少し・・・うーん、落ち着け?いや、そーじゃなくて・・・
 とりあえず、そのカッチコッチになるの止めなさいよ。」

ガウリイさんとリナの声で我に帰りました。
現在、国際空港のロビーの椅子に、3人で座って、
ゼルガディスさんが出てくるのを待っているところです。
今、二人の声を聞いた瞬間、
どっと身体の力が抜け、疲れ果てて心臓ドキドキしてます。

「今からそんなんで、本人に会ったらどうすんのよ?」
「ゼル、変わってるかな~?なんかオレまでドキドキしてきたぞー!」
「追い打ちかけんじゃないわよ!」
「どーしよーリナァ~~・・・動けません~~!!」
「知らないわよっ!!」

周りから変な眼で見られていることにも気付かず、
わたし達は絶えずどやどやしていました。
リナもガウリイさんも、口には出していないけど、
久しぶりにゼルガディスさんに会えるのが楽しみで、
こんなにテンション高いんだと思います。

わたしは、酷く心臓が痛いんです。

息をするのが辛いほど、心臓が仕事をしていて。
膝の上で握っているわたしのまんまるな拳の中は、冷たくなっていて。
どうしましょう。
どうしましょう。
―――会えるのが嬉しくて、胸の奥が、痛い。


その時。


どやどやと、1つの人だかりの中に、
1人だけ、眩しいオーラを放った、
彼の姿――――

「お―――い!!ゼル――――!!!!」

気付いたガウリイさんが、大きな声で彼を呼ぶ。
サングラスをしていた彼はその声に気付くと、
懐かしいあの苦笑を浮かべながら、サングラスを外しました。

あぁ・・・やっと会えた。
あの優しい瞳に―――

旅行にしては小さすぎる皮のバック一つだけ肩に担ぎ、
小さく片手をあげて、口は「よぉ」という形を作っています。
そのしぐさに、心臓を射抜かれたように、
きゅーんと鋭く痛くなりました。
今、リナに肩を抱いてもらわないと、立っていられないほどに。

「ゼルガディスさ・・・」
「相変わらずだな、お前ら。」
「おー!ゼル久しぶりだなぁー!!会いたかったぞー!」
「そりゃどうも。」
「なーによ。なんも変わってないじゃない。」
「そうそう変わりゃしない。ゆっくりやるさ。」
「そ。ま、元気そうでなにより。」

――――あれ?今・・・

 

避けられた―――――?

 

 

 

 

 

気のせいかと思いましたが、
確実に、そうではないと思い知らされました。

ゼルガディスさん加えて、久しぶりに4人で行動しているのですが、
帰っている電車の中でも、
その後行ったレストランでも、
あの人は、リナとガウリイさんと話をしていて、

一度も、わたしを見ていませんでした。

何度も声をかけようと試みても、
まるで謀っているかのようにかわされ、
3人の笑い声にかき消されてしまいました。
その時に話していた会話も、食べていたご飯も、
時が経つにつれ、何も分からなくなりました―――

それどころか、
あの時のドキドキが、恐怖にじわじわと変わっていきました。
・・・一体、わたしは何をしてしまったんだろう。
メールの時、何か失礼なことでも言ったんでしょうか・・・?
いつも、彼にメールを送る時は、5回は確認をするのに、
今回は帰ってくる嬉しさのあまりそれを怠ったから?
怖くて、自分の送った浅ましいメールを見返すことも出来ない。

どうしよう。
どうしよう。
せっかく、会えたのに。
わたしの網膜には、目の前の彼が焼きついて離れないのに。
一度も話せずに終わるの?
眼と眼が合うことさえもなく終わるの?
わたしの言葉、聞いてもらえずに終わるの?


わたしは、嫌われてしまったの―――?


そう思った途端、胸の奥に激痛が走りました。
その痛みを耐えるのに必死になったせいか、
膝の上で握っていた拳の中には、大量の冷や汗が。
脳と顔面だけが熱くなり、
そこから下はまるで別の物のように徐々に体温を奪われ、
もう、限界が近づいてきました。

「じゃ、そろそろ遅いし、帰りますか。」

その時、そう言って腰をあげたのはリナでした。

「そーいやゼル、あんた今日どこ泊んの?」
「あぁ。ガウリイん家に世話になるつもりだ。」
「あー、あそこん家狭いわよ?きったないし。」
「ひどいぞリナー。これでも、ゼルが来るからちゃんと片付けたんだぞー?」
「あっそー。足の踏み場、あると良いわね。」

明るい会話をしながら、会計を済ませ、身も凍るような外界へ。
必死で出す白い息は、魂まで漏れ出ているようで。
頭がぼーっとする中、あっさりと3人と別れました。
学園にいた頃、こんな遅くまで外にいたら、
「世の中何かと物騒だから」といって、
彼はいつも送ってくれたのを思い出しました。
もしかしたらと、そんな淡くずるい予感が、少しでも頭に残っていたせいか、
さよならも言わず背を向ける彼の背中を見た途端、

無意識に全力で走っていました。
―――誰にも止めることの出来ない、溢れ出る涙を隠すため。


家に帰ると、2通のメールと6件の着信。
どれもリナとガウリイさんから。
メールの内容は、「無事に帰れたか?」というもの。
恐らく、電話に出なかったから、とりあえずメールをしてくれたんでしょう。

「無事に帰宅しました!」

文字では極めて明るく振舞い、
それを打ち込む手は震え、未だ涙は止まらない。
よかった。今日は、明日開かれるパーティー準備のため、
使用人の方達は忙しいし、父さんは明日休む為に今日頑張って仕事。
誰にもこの酷い顔を見られず、部屋に行ける。


――――バカみたいですね。


部屋へ戻り、電気もつけず服も着替えず、
ベットの上に倒れこんで、一番に浮かんだ言葉。

リナ達と楽しく見つけた彼へのプレゼントも、
大学の友達と少しでも可愛くみてもらいために用意した服も、
高揚感も、胸のときめきも、全部、全部全部全部、
わたしの独りよがり。

しかも、何故彼がわたしを避けるのか、理由もわからないまま、
というのがまた情けない。
そう、理由すらわからない。
あんなに一緒にいたのに、彼の心は大体わかると思っていたのに。
そんなんで、彼の隣にいれる資格があったと思っていた、
おこがましい自分が、全て悪でした。

でも、目を閉じても、
浮かんでくるのはさっきまで目の前にいた彼の横顔―――

決してわたしを見はしない、
でも、確実に近くにいたあの人の顔。

忘れることのできない、
大切な―――大好きな――――
ゼルガディスさん。

その残像と想いを涙でびしょびしょに濡らしながら、
しばらくずっと、まどろんでいました。

 

 

カタン


その小さな音で一時覚醒しました。
いけない。ベランダに置いておいたクリスマスツリーが、
倒れたりでもしたのだろうか?
そう思って、ベランダに出ようとして、
何故か手が止まりました。

一瞬にして、彼と過ごすことのできないクリスマスを思い浮かべ、
ここで倒れたツリーを元に戻しても、
それはただ更に悲しくなるだけだと、
思いを馳せてしまいました。
その思いに潰されて、また涙が流れてきましたが、
ツリーに罪はないと思いなおし、
ベランダの扉を開けました―――

チカチカと、クリスマスツリーは正常に稼働中。
倒れることもなく、凛と華麗にその存在を維持してました。
―――あれ?
じゃぁ、モニュメントでも落ちたかな?と、
周りを確かめようと一歩近づいた・・・


その光景に、目を疑いました。


「・・・よぉ。」

さっき、言ってもらえなかった言葉でした。

 

 

「・・・ゼル・・ディスさん・・・?どう、て・・?」
「・・・まぁ、ちょっと、な。」
「ってゆーか、どうしたんですかその顔っ!!??
 尋常じゃないですよ!?誰がこんなっ・・・。」

ツリーの影に、大会で疲れ切ったときのように、
片膝だけ立てて壁にもたれかかって座っていたのは、
顔面を誰かにタコ殴りにされた、ゼルガディスさんでした。

急いでポケットからハンカチを取り出し、
少し出血しているところを急いで拭き取りました。

「・・・すまん。」
「そんなことより、一体誰がこんな酷い・・・」
「・・・リナと、ガウリイにやられた。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

思わず手を止めたら、
今はじめて彼と瞳をあわせることができました。

「えっ?な、なんでですか?挨拶ですか?
 それにしてはやりすぎなんじゃないですか?」
「違う。冗談ではなく、本気で殴られた。」
「いや、だから、どうして・・・」
「おれの、お前への態度を咎められた・・・」
「ぇ・・・」

小さく、呟くと、気まずそうに、やっとあった目をまた逸らされて、
彼は下を向いてしまいました。

「お前が、さっき走って帰った直後に、
 2人同時に鳩尾やられた・・・。
 その後は、なだれ込むようにタコ殴り・・・。」
「え・・・あ。その・・・少しは抵抗・・・」
「する必要はない。」
「え?」
「お前を泣かせたんだ。抵抗できるわけがない。」
「そんな・・・」
「・・・・・・すまなかった、な。」

また気まずそうに言ったその口調は、
3年前と、何も変わっていなくて。
そう思ったら、雪崩のように涙が出てきて、止まらなくなりました。
嗚咽を漏らすことも、流れる涙をぬぐうことも忘れ、
一秒も逃したくない、彼を見つめながら、
ただただ涙だけを流していました。
「もう泣くな・・・」と、彼は言いながらも、
涙をぬぐうこともせず、わたしの涙の好きなようにさせてくれました。
その時、ずっとわたしを見ていてくれました―――

しばらくすると、
「やっぱり、もう泣くな・・・」と小さく小さくつぶやいて、
冷たい優しい手で、少し乱暴に涙を拭ってくれました。

――――もう、耐えられない。

そう思ってから、気付くと、
わたしはゼルガディスさんの腕の中にいました。

 

何度か、こうやって彼の腕の中に入ったことはありました。
だけど、今日は、何かが違う――――
お互いが離れまいと、しっかりと抱き合っている。
彼に涙の染みをつけるのが忍びなくなり、
顔をあげようと少し身じろいでみたら、
それを許さないかのように、強く、また頭を抱え込まれました。
その時、彼の腕もまた、小さく震えていることに気付きました・・・

「ゼルガディス、さん・・・?」
「・・・少し・・・もう少し、ここにいろ・・・」

掠れるような囁く声。
温もりと声が直接耳に流れ込む。


―――クリスマスの、幻想じゃない。
この幻想のような時間が、このままで止まればいいのに。


その時間を止めたのは、わたしの部屋から響く、
0時を告げる時計の音。

鐘の音に似せた電子音が、
3回鳴りました。
――彼とわたしは抱き合ったままゆっくり顔をあげました。
5回鳴りました。
――世界で一番彼に近い場所で、お互いに焦げるほど見つめ合いました。
10回鳴りました。
――どちらからともなく、顔が、どんどんと近づいて。



12回鳴り終わったときには、
クリスマスツリーが煌めく隣で、温もりを分け合っていました―――

 

「・・・ッはっ・・ルガっ・・さっ・・」
「・・ッ・・も少し・・・」

貪るような口付けに、
苦しくなっても放してくれなくて。
でも、いいんです。
放してくれなくて、いいんです。
―――放さないで。

 


生涯で初めての触れ合いに、
体力を根こそぎ持っていかれたようで、
わたしはぐったりと、彼の肩口に顎を預けてしがみ付いていました。
ベランダにいて、外の空気はとてもとても寒いはずのに、
むしろとっても温かい。
ゼルガディスさんも、わたしの腰を抱いてくれて、
外界の空気さえも、わたしたちを阻ず、
聞こえてくるのも、彼の吐息だけ。

「・・・アメリア」
「・・・はい。」
「っその・・・」
「ゼルガディスさーん?」
「・・・その・・・」
「ゼルガディス、さーん?」
「・・・はい?」
「メリー、クリスマスです。」
「・・・Merry・・・Christmas・・・」

さすが外国帰り。
やけに発音の良い言葉にまた胸がきゅんとなり、
「かっこいいですぅ」と呟いて、
首に巻いた腕の力を少しだけ強めました。

 

「本当は、今日のパーティーの時に渡そうと思ってたんですけど、
 これ・・・クリスマスプレゼントです。受け取ってくれますか?」
「・・・おれに?」
「もちろんです。」

さすがにずっとベランダにいるわけにもいかないので、
一旦わたしの部屋に入りました。
・・・そういえば、彼と2人でこの部屋に入るのははじめてかも。

「どうか、開けてくれませんか?」
「いいのか?」
「開けてください!」

今、この気持ちのまま渡したくて、
ちょっとフライングだけど、とっておきのプレゼントを。
彼へのプレゼントとは、

「・・・地球儀」

インテリア用の、蒼いガラス玉。
きちんとした地球儀よりは随分小さなものだけど、
ちゃんと大きな国には筆記体で国名も記してあるし、
スイッチをつけると、優しい青色で光るんですよ。

「なんで、これにしたんだ?」
「・・・えっと・・・
 向こうに戻っても、こっちと繋がってるって、思ってもらえるように・・・」
「・・・お前らしい。」
「へへへ・・・」
「ありが、とう。」

いつものお礼の言葉は「すまない」とか「悪いな」とかなのに、
今日はじめて聞けた、彼の「ありがとう」に、
思わず言葉を失ってしまいました。

「・・・先越されてしまったな。」
「え?」
「おれだって、パーティーがあると聞かされて、
 手ぶらで来たわけじゃない。
 ちゃんと、土産を用意したんだが、
 如何せん、今日の昼ごろにならんと届かん。」
「そんな!お気を使わせてすみません!」
「先にプレゼント渡しといてそりゃないだろ。」
「わたしは、楽しく選んだからいいんです!」
「おれだって・・・っ!!」

ゼルガディスさんも?
楽しく選んだの・・・?

「笑うな。」
「嬉しいから笑うんです!!
 ふふっ・・・パーティー楽しみにしてます。」
「・・・だから」
「はい?」
「今、おれに出来るものをお前に贈ろう。」
「え?」
「悲しませた分だと思って、存分にねだれ。」


どこまでも上から目線の、
彼にしてほしいこと・・・
今。


「じゃぁ・・・」
「なんだ。」
「・・・言葉、を、下さい。」
「っ・・・」
「ゼルガディスさんのとって、
 わたしに対する、とっておきの、言葉を下さい・・・」

これだけはどうしても、
こんな機会が無いともらえないものだから、
無口で口下手が服着てるような人だから。
だけど、言ってみたものの、あまりにも彼が困っているから、
不安になって・・・でも、何て言っていいかわからなくて、
じっとみつめていると、

「・・・どのくらい、欲しいんだ?」

顔に手をあて、真っ赤な顔を隠すようにしながら言いました。
照れているときは、妙にはっきり物を言う人なのです。

「・・・一言で、いいです、けど・・・」
「・・・け、ど?」
「いくらでも・・・いいです。」
「―――・・・了承した。」

真っ赤な顔はひくどころか、更に赤みを増して。
座っていたベットからいきおいよく立ちあがり、
セカセカとその場を行ったり来たり、行ったり来たり・・・。
考えてる考えてる。

しばらく根気よく待っていると、
ベットに座っているわたしの前で真っ赤な顔のまま直立不動になった、
と思ったら、ぐっと腰をかがめ、
またさっきみたいに、口をわたしの耳元へ持っていきました。
誰にも聞こえるわけでもないのに、
ひどく震えた小声で、

「・・・アメリア、綺麗に、なった、な。」
「っ―――――――――!!!??」

今度はわたしが真っ赤な顔になって動けなくなりました。

「・・・空港で、ガウリイに呼ばれる前に、お前を見つけて・・・
 あんまり・・・綺麗になってるもんだから・・・
 まともに、顔を見ることが・・・出来なくて、だな・・・」
「・・・だ、から・・・さっき、まで・・・」
「リナとガウリイにはお見通し。
 お前の意気地のなさで、アメリアを泣かすな、って、怒鳴られた。」
「・・・リナ・・・ガウリイ、さん・・・」
「・・ガウリイに、お前と仲直りするまで、
 帰ってくんな、って・・・言われて・・・だか、ら・・・」
「ゼルガディス・・さぁん・・・」
「・・・ごめん、なさい。」
「もう、いいです・・・いいん、です・・・。」

さっきまでの恐怖をまた思い出して、
ひいたはずの涙が、またその堤防を壊しました。

「・・・泣くな・・・頼むから、泣かないでくれ・・・」
「・・・ごめんなさいっ・・・でもっ・・・止まんな・・」
「・・・アメリア」

2回目―――
優しく頭をなでてくれながら、
彼は唇の温もりを分けて下さいました。

 

胸が、今日で一番痛い―――
緊張からでも、嬉しいんでも、怖いんでもない。

そう・・・切ない

この言葉を、知っていて本当に良かった。
じゃないと、特定できない感情に、壊れてしまうところだった。
性急に求めてくる彼の温もりが、ひどく切ない。
ずっと会えなかった時を埋める様に、
夢中でお互いを求め合った。

「っ・・・ゼル・・・ス・・さぁ・・っ」
「・・っ・・・ん・・・」

―――もう、放さないで!!!

胸の中で叫んだ。
その反動で、彼の背中にすがるように手を回し、
それと同時に、彼もわたしをもう一度胸の中に押し込みました。
そしてそのまま、ベットに倒れこんだ―――

 


「アメリア・・・アメリア・・・」
「っふ・・・ゼル、ガ・・ディスさ・・・」
「もう・・・我慢、できん。」
「・・・ふぇ・・・?」
「すまん・・・無理だ・・・もう、耐えられん・・・」
「・・・・っ!!?あ・・・あの・・・」
「・・嫌なら・・・全力で逃げてくれ・・・」
「あ・・・あのあのあの・・・!!」
「アメリア・・・」
「あの・・・わたし・・・今・・・その・・・!!」
「・・・?」
「・・・下着・・・上下、バラバラで・・・」
ぶふっ!!!
「吹き出さないで下さい・・・っ!!」
「・・・すまん・・・だがなぁ・・・」
「でも・・・ゼルガディスさん・・・なえません・・・?」
ぶはあっ!!
「またー!!」
「・・・すまんすまん・・・だがな・・・?」
「?」
「上下バラバラだろうが、なんだろうが・・・関係ない。」
「ゼルガディスさん・・・」
「ここにいるのがお前で・・・
 お前を手に入れることができると思うだけで・・・
 それだけで・・・もう何もいらん。」
「――――――――っ!!」
「お前しか、いらない。」


それはわたしに対する、
とびっきりとっておきの言葉でした―――

 

 

 

 


24日、クリスマスイブの朝。

目が覚めたら彼の腕の中で眠っていました。
その瞬間に甦る記憶と共に覚醒し、
同時にどうしようもない喜びが雪崩れ込んできて、
小さく身じろぎをしたら、彼も目を覚ましてしまいました。
寝惚けた、擦れた声の彼の「おはよう」と、
そのまま引き寄せられ、もらったキ・・・スに、
わたしはデロンデロンに溶かされてしまいました。


その夜のクリスマスパーティーも、恙無く行われ、
要約帰ってこれた父さんを前にするなり、
ゼルガディスさんの顔色は、みるみる悪くなったのが気がかりでしたが、
いつも通り、リナとガウリイさんが大暴れして、
大盛り上がりのうちに、パーティーは終わりました。

その時に、ゼルガディスさんはガウリイさんとお帰りになりました。
ひどく、悲しいと思ってしまうのはお角違いなのですが、
やはり・・・寂しくて。


そしたら帰り際に、皆の目を盗んで、
ゼルガディスさんがまた・・・その・・・エヘへ。
寂しさ、吸い取っていただいた気がします・・・エヘへ。

―――その日からほぼ毎日、ゼルガディスさんと一緒にいました。

 


日にちは瞬く間にすぎて、
3年前のように、空港で彼を見送る日がやってきました。
またずっと会えない日が続くとわかっているのですが、
その心持は、数か月前とは比べ物にもならないものでした。

4人で見送りに行ったのですが、
リナとガウリイさんは、空港の駅につくなり、
空港のお弁当を漁りに行くから、と行ってどこかへ行ったきり。
その瞬間、ゼルガディスさんの大きな手に、
わたしの手は包まれて。
その温かさを離したくなくて、少しだけ泣きました。

 


そしてまたわたし達は、別々の道を歩き出しました。

 

 

「ゼルガディスさんっ!!!」
『おい・・・お前、こっちは何時だと思ってるんだ・・・』
「夜中の1時でしょう?」
『・・・わかっとるのにお前は・・・』
「だって、ゼルガディスさん、その時間もまだ寝ないじゃないですか。」
『・・・そうだな。』

今までと1番変わったところ。
わたしは2台の携帯電話を持つようになったところ。
1台目は今までのもの。
2台目は、彼にしかつながらないもの―――
だから、液晶のデジタル時計も、彼が刻んでいる時間を刻んでいます。

「それより、今すっごい大事なことに気付いたんです!!!」
『お前の大事なことは、おれにとってもちゃんと大事なのか?』
「・・・どーゆー意味ですかっ!!?」
『まーた、正義の云々だったら、おれは読書に戻るぞ。』
「ちょっ・・・!!切らないで下さいよっ!!?」
『切らんが、聞かん。』
「ぶ――――っ!!!」

もう1つ変わったところ。
わたしの首には、彼からのクリスマスプレゼントが、
1年中輝くようになったところ。

「でも、これはぜぇったい、ゼルガディスさんにとっても
 すんんんごい大切、ですっ!!!」
『・・・何だ?』
「わたし、ゼルガディスさんに気持ち伝えてないんです!!!」
『ごほっ!!!っっごほごほごほごほ!!!』
「いや―――!!!耳元で咳きこまないで下さいよっ!!」
『お前も!!耳元で突拍子もないこと叫ぶなっ!!』
「なんでですかっ!!大事なことですっ!!!」
『いや・・・しかし・・・』
「わたし、ゼルガディスさんのこと・・・!!」
『こらまて言うなっ!!!!』
「なんでですかっ!!!ちゃんと聞いて下さい!!!」
『お前が言うなっ!!!』
「なんでですかっ!!!」
『おれから言うからっ!!!!』
「・・・・・・・・ゼルガディスさん、から?」
『・・・その・・・あぁ、ちゃんと、おれから言う。
 だから、待ってろ。』
「今・・・言って下さらないん、ですか?」
『・・・っその声・・・反則』
「反則なんて悪行しませんっ!!なんですか反則って!!!」
『あー・・・すまんすまん。
 だから、電話でじゃなくて、ちゃんと言うから・・・。』
「・・・・あ・・・・はい。」
『だから、待ってろ。』
「どうせなら、今年のわたしの誕生日とかに、
 連絡もなしにいきなり帰ってきて、
 両手にいっぱいの薔薇の花束を持って、
 白いタキシード着たゼルガディスさんに言われたいですv」
『・・・なんだその妄想。』
「妄想とはなんですかっ!!乙女の夢ですっ!!」
『ロマンチックだこと。』
「正義ですっ!!」
『あーそうかい。』
「あ。そろそろ学校行ってきますねっ!」
『行ってらっしゃい。』
「ふふふっvゼルガディスさん、だーいすきっ!!」
『だからお前から言うな言っただろう!!!』


何も変わらないこと。
ゼルガディスさんへの、気持ち――――!!!

 

『あー、キスしてぇー。』
「~~~んもう!!!ゼルガディスさんのばかばかばか―――!!!」




終わり
 

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